第11ー8話月夜と秋の普段の生活?

 それからわたしは秋が妙に優しい態度を取る事に気づきました。


 まだまだ引きずりながら、「チルドレン・オブ・ザ・グレイヴ」に「血まみれの安息日」をループで聴いております所、秋は肩や足を丁寧に揉んでくれたり、進んでお茶を入れてくれたり、良かった本についてあれこれ語っていると、いつも以上に上手い具合に相槌を打ってくれて、話をスムーズに運ばせてくれる上に、わたしの拙い話の中から要点をしっかり捉えて、本に対しても興味は持ってくれるのは勿論、その後に読んだ時はその話をまたしてくれたり、髪を縛ったりするのをやってくれたり、色々な可愛い髪型にしてくれたりもしてくれましたし、お風呂に入る時は髪を洗ってあげようかなんて魅力的な提案をしてくれて、わたしが少し遠慮してそれはいいから手が届きにくい背中を洗いっこしようと言うと、それをしてくれてわたしの弱い洗い方に文句もつけず、秋はゴシゴシとかなり気持ちよく洗ってくれるのでした。


 秋がいつもより穏やかに微笑んでくれて、わたしは暗い気持ちから少しずつ立ち直りつつありました。

 それにCさんグループも、変に突っかかって来たのはあの時だけで、それ以上何も言って来なかったし、野分ちゃんに負担が来ないからか、秋が馬鹿みたいと陰口を叩くくらいで、それには腹が立ったので何か言ってやりたくもありましたが、そうするのもこちらの労力の無駄だし、折角怒りも治まって来ているのにこれをまた蒸し返すのもどうかと思いましたので、秋には聞かれていなかったようでもありますし、これはわたしがぐっと堪えておくのが賢明だと踏ん張りました。


 それからわたしはあんまりにも秋が怖いくらいに親切に至れり尽くせりな状況なものですから、また切ない気持ちになって来てしまい、洗濯物を取り込む時に下着に目が行って危ない所でした。

 いえ、未遂で済めば良かったのですが、少しパンツの匂いを嗅いでしまうくらいの事はやってしまったかもしれません。

 洗濯はしていても、やはり秋の穿いている物。それがエスカレートしないように、もうちょっと冷静になろうと努めようとしましたが、やはり駄目であって求めてしまいます。


 そう言う訳で、時々わたしは後ろにくっついて来るのをまだしている秋に、キスしてくれないと後ろに陣取るの禁止と言って、熱っぽく見上げて濃密に愛し合うように口づけだけに終わらず、舌を絡ませ歯も当たり、その周囲も舐めたりしながら、愛欲を募らせていたのですが、秋も以前より滑らかに愛情表現をするようになり、より柔らかく通じ合って愛を交わす事が出来たと思います。


 そうは言っても、わたし達もとい主にわたしなのですが、とにかくエッチまでは至らないように気をつけていました。

 どんなに気持ちが高ぶってもキスしたり、体を触ったり、抱き合うくらいで、それもハグをきつくする以上には発展させず、自制をする理性を保っていました。

 一時からしたら、少し進歩したと思いませんか。より深く繋がったと言う安心感が、それほど焦りを生まなくなったのでしょう。

 秋もこの頃は、どこからかやり方を覚えて来て、わたし同様に公然と見られない場所で発散する事にしているみたいで、少し秋の進展に安心しました。

 だからかやり方を教えて、なんて事を言われなくて、わたしは複雑な気持ちでありながら、ホッともしたのです。


 それにしてもどうしてキスを交わすだけで、こんなに蕩けてしまうのでしょうか。唾液を混ぜ合わせて、相手のそれを飲み込んだりする背徳感や、舌の感触がピリリと官能を刺激するからだろうとは思いますが、それ以上に柔らかな感触の唇同士が触れ合っているとこちらの心が高ぶって来て、秋を強く求めても求め切れないくらい、もっともっとと欲望の際限がないかのように、秋がエロティックに見えてしまって仕方がないほど、もうその行為中は恍惚として堪らないのです。


 やはり人間は性的な願望を多少遂げられると、それが脳内の快楽物質をドバドバ分泌してしまって、それを体が覚えて習慣になっていくのですかね。

 そう言う意味では、確かセックスが幸福に感じる脳を作るのに、割と脳科学的にいいみたいな話も聞きますし、それに近い事をイタしているわたしは、辛い記憶を押しやるほどの作用が脳内に起こっているのかもしれません。

 とは言っても、それが良い思い出になるなんてのはあり得ない事なので、それをどう切り替えていけるか、今の状況をどれだけ見つめて幸せならそれを噛み締められるか、って言う所にかかっているのですね。


 そんな風に過ごしながら、学校でも疎ましい人を気にする事なく、桐先生の自分を棚に上げたツッコミを受け流したりして、砂糖さんが真っ赤になりながら鬨子さんが砂糖さんを求めようとしているのを必死で誤魔化していたりするのを尻目にしながら、わたしは秋との愛ある生活を享受していたら、いつの間にかクイーンの「ユアー・マイ・ベスト・フレンド」とかその辺りの曲を聴いたりもしていたのですが、その無意識的な行動を自覚して、慌てて聴いたのがビーチ・ボーイズの「素敵じゃないか」だったので、もう末期的になっていっているようですが、これはいい傾向なんだろうか、でも暗い世界を理解する心はどこかにわたしにはあるはずだと言う、変なアイデンティティなのかプライドの様なものもあって、無理矢理ジャニス・ジョプリンなんかを聴こうとしたり、何だか混乱した状況になってしまってもいて、それを秋に言うと面白そうにクスクス笑われるし、どうやら姉の事を考えて躊躇する次元は過ぎ去って行くようですし、何だか寂しい気もしましたが、先に進んでいる事は喜ばしい状態でしょうから、出来るだけ素直に受け取れるようになりたいなと、少し希望の様な願望も抱いたのです。


 秋の方はと言うと、結構ちゃんと受け止めてくれる父親に何やらあれこれ話しているらしく、母親が抑圧していた頃よりも随分父親との関係が良好になって、会う頻度も増えて父親も母親があれこれ言わなくなった分嬉しさが高まったと、秋も喜んでいるみたいだから良しとすべきなのですが、偶にそうやって出掛けるとわたしは急に寂しさに沈んでしまいそうになって、決まってエミリーと話し込む事になったり、楓ちゃんや淡雪さんの所に押しかけていったりしていたと記憶しています。



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