第11ー6話月夜の発作と傍にいてくれる秋
いやしかし困りました。わたし自身、想像以上に動揺していたみたいで、あれこれ先述したようにトラウマ的な呪詛から来る、苦しみの症状が出てしまったようです。
何となく寝られなくなって来て、段々あれこれ考えてたらしんどくなっていって、それが高じてパニックの発作が起きてしまいました。
これは最近ではあまりならなくなっていたのですけど、やはり昔の事を思い出すと少々コントロール出来ない事態になるのですね。
あまり辛い記憶は書きたくないので、そんなに重くは書いていないのですが、心情的にはかなりトラウマになるくらい、自己嫌悪と姉の自殺未遂のショックで、自分も自殺を考えるくらいにまでなっていましたが、平常時はロックを聴いていると不思議に浄化される場合もあるのだから、本当に精神のあり方はわからないものです。
薬を飲みに居間にいく時に、隣で寝ている秋を起こさないように出て行ったのですが、帰って来てはあはあ言いながら、布団に横になって何とか落ち着いて寝られないかとうんうんやっていると、既に秋は起きていたみたいで、
「やっぱりしんどくなったんでしょ。大丈夫? 何か用があったら言ってね」
と急に起こされたのに優しく心配してくれます。
「うん、昔の事思い出してたら、発作が来ちゃって。薬は飲んだから、後はゆっくり安静にして寝られるの待つだけだから、大丈夫。いつも死にそうにしんどいけど、慣れっこにもなってるから」
そうわたしがぎこちなく微笑してみせると、秋は複雑な表情をして、心底無力感を嘆くみたいな感じで、こう言うのです。
「そう。とりあえず、何も出来ないけど、寝るまでは見ててあげるから、安心して。私はいつも側にいるからね」
それ以上は、わたしは何も言えなくなっていたので、秋の顔を見る事もせずに、目を瞑って只管苦しみに耐えながら、何も考えないようにしようとして、心に浮かんで来る諸々の言葉や想念を振り払いながら、割と今回は長い間息苦しい思いをしながら、眠りにつきました。
その朝に目が覚めた時は、治まっていたのはいつもの事で、それでも冷や汗を沢山かいていました。起きた時に側に秋がいたので、
「ずっと見てたの? 寝たり、する事してくれていいのに」
と言うと、馬鹿だなぁと言う顔で、とてつもなく柔らかな眼差しを送りながら、
「いやあの後、月夜が寝てから、私も寝たよ? それに起きた後はささっと朝ご飯も食べちゃったし、その上で月夜を眺めてたんだよ。でも本当に大丈夫なの? あの子達の事で、実際はかなり気に病んでるんじゃなかったのかな。辛い事は、何でも言ってくれなきゃ。パートナーでしょ」
「うん、ありがとう。秋は本当に優しいね。わたし、やっぱり守られてばっかりだ」
「そんな事ないよ。月夜は、いつも私を励ましてくれるんだから。お互い持ちつ持たれつだよ」
そうして背中など拭きにくい所を、秋がタオルで拭いてくれました。不思議と寝起きでぼんやりしていたので、恥ずかしい気持ちにはならなかったのが可笑しいですね。
その後朝食を軽く取って、秋が座っている所に寄って来ます。そして、ギュッとされました。
何故だか、この時は温かい気持ちになったように思います。だから、わたしは思い切って言わなくちゃいけない事を言ってしまいます。
「あのね、この前話したお姉ちゃん。お姉ちゃんが自殺未遂をした時から、本当はわたしみたいなお荷物が死んで、お姉ちゃんが活躍出来るなら良かったのになって、ずっと考えてるの。
価値化しない話、前にしたよね。あれって確かに今の人権のテーマとしても大事だとは思ってるんだけど、必死にわたしが生きていていい理由を探して、それで自分を納得させようとしてるんだよね。
秋みたいに何でも出来て、健康な人には多分この気持ちは理解しづらいと思うけど、実際に弱い立場にいたらさ、無力感が凄くあるのよ。生きているのがしんどくもなって来るし、生きなきゃいけない理由がなくなって来ちゃいそうで」
後ろから抱き締めてくれているまま、秋は話を聞いてくれています。
「だから、必死で自己肯定をしようとしている時に、周囲の心ない言葉で傷つくと、本当に死にたくなっちゃうの。
だからいじめで自殺した子に、よく周りが死んじゃいなよ、なんて暴言を吐いてそれで死んでしまうのが馬鹿らしいって皆言うけど、確かにそうなんだけど、でもそうやって否定的に言われて死んだ方がいいとまで言葉を浴びせられたら、どんどん死の方に引きずられちゃうの。
だから、極力接触しないようにした方がいいし、昔は保健室登校とかしてたけど、高校ではそうはしたくなくて、それに今は秋も砂糖さん達もいるし、もっと前向きに生きていきたいって考えてる。
わたしはもっと楽に秋と生きたいのよ。でもそれが中々難しくて、通院してても一向に良くもならないし、改善は勿論してるんだけど、完治する所までは全然たどり着けないし、そもそも体が弱いのはどうしようもなくて、秋には凄く負担掛けると思う。只でさえ秋も不安になる状況になっちゃったのに、ごめんね・・・・・・」
ここまで言い終わると、わたしはえぐえぐ泣きじゃくっていました。人前でこんなに泣きまくるなんて、全然なかった事なのに。
そのわたしに秋は、頭を撫でてくれながら、涙を拭ってくれます。
「そっか。でもそれは仕方がないよ。それだけ傷ついて、苦しんでしまってるんだから。回復するのは時間がまだまだ掛かるんだろうし、何なら一生付き合っていかないといけないくらいの気持ちも持ってると思う。
それだけ好きだったお姉さんがそんな事になっちゃったり、言葉だけじゃないかもしれないけど、言葉の暴力を受けるのは痛ましい事だし、月夜がそれを忘れる事が出来なくても、他の幸せをもっと享受して、そんな事をあまり心に思い描かないでいられるように、私がちゃんと居場所になってあげたいな。
私も月夜にはお世話になるし、もっと私達の未来は明るいものにしたいじゃない」
わたしは振り返って、秋の胸に体を投げて、愈々泣いてしゃくり上げます。
それをしっかり受け止めてくれて、優しく見守ってくれている秋の優しさ、その温もりの尊さ、これは今までわたしが家族からしか得られなかった、それもあまり満足出来る形じゃなかっただけに、ここまで一緒にいつもいてくれて、わたしを守ってくれて、それで一人の人格ある人間として好きでいてくれる秋に、本当に出会えた事も側にいれくれる事も感謝しかないとしか言えないのです。
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