第11ー5話月夜の独白。思う所

 迫害と言うのは、自分達が多数派やスタンダードだと思っていて、それでマイノリティに対して特権を受けているとか言って批判しているつもりになったり、ただ周りから浮いたり違うと言うだけで、どんな属性であるとか関係なしに疎ましく思うものであると思います。


 小学校の時に、本を奪って捨てられた時はショックでしたが、今から思えばAさんは異端裁判をしている様な気分だったのではないでしょうか。

 今の時代に読書用に設けられた学校の時間でもないのに、休み時間に読書しているわたしみたいな人間は、相当に気味が悪かったのかもしれません。


 そうです、人間の心理として、理解出来ないものは怖いし、排除したくなるものです。

 それに加えて、わたしは体が弱く休みがちでもあったし、それで先生に助けられたりもしていたので、何か特別扱いで得をしているとか、周りの人間に過剰に迷惑をかけているとか、そんな風に思われていたと推測していますが、どうでしょうか。


 大体、迫害される側からしたら、同調圧力だとかマジョリティの暴力なんて、もううんざりで嫌なだけで本当にどうにかして欲しいと言いたいですが、向こうからしたら何で自分だけ勝手にするんだとか、調和の為に皆と歩調を合わせなさいよ、ってな所もあるんじゃないかと思います。

 だからこそ、こんな社会が中々変革されないのだし、マイノリティはそもそも数が少ないからマイノリティな訳で、それが同じように扱われるのは凄く難しいのだと思いますし、それでいて変な利権の運動家に、わたし達を利用されたくないとも思います。


 と言うのは、あまり語らないでいたのですが、保健の先生に思慕の意識を持っていた時に、何やら姉の事も含めて気持ち悪い兄妹だと囁かれていたようでもあるのです。

 姉の事を兄だと言うのも腹立たしいですが、これも甚だしい勘違いとして挙げると、同性愛者が周りにいると、自分が犯されると思う感情に近いものを感じる人もいるようなのです。

 銭湯なんかで変な目で見られてるようで嫌だ、とか言ってる人が多くいるのが典型的ですね。こっちは同性愛者でも、誰でもかんでもを恋愛対象として見ている訳じゃないので、どんな裸でも興奮してるなんて思われるのは心外です。


 そんなのもあって、秋と付き合うようになるまで、秋にのぼせ上がっていた時も、心のどこかで好きになった相手がノンケだったりすると、報われない恋にもなるし、それに加えてわたしの様な病弱な人間なんて好かれる訳ないと思っていたので、相当重い気持ちでいましたし、だから友達も全然出来なかったし、それで野分ちゃんみたいな誰でも関係を作ろうとする人が声を掛けてくれたのであって、秋は、あの人はまぁどうも最初からわたしにただの感情ではないものを抱いていたようですが、そうやって広がっていけたのは本当にありがたい事だと思っています。


 でもああ言う人もいるのは、確かに理解していますし、昼間にわたしも言ったように無視するしかないと思います。

 攻撃が激しくなったら、対抗措置を取るのは当たり前だし、そうやってわたしは昔から防衛行動は取って来たつもりです。


 だけど大多数から、お前の存在は必要ないんだ、お前が優遇されるのは気に食わないなんて思われている、なんて状況はかなり堪えるのがわかって貰えますでしょうか。


 心ある人には、生産性で人を見るなとか、保障されるべき人権があると言って頂けるのですが、結構な数の世の中の人は、必要ない所にお金を割かないで欲しいとか、役に立たない人間にはそれ相応の立場でいさせたらいいと思っていると言うのが、様々な言説を見ていると実感として強く感じるのです。


 過去にはヘイトクライムだって起こっている事実もあり、犯人を称える書き込みをしている人も多くいたと言う話も聞きました。


 一般的な健常者による、不当に権利を侵害されている、とかの類の被害妄想などはこう言うものを想起させますが、しかし彼らもどこかの領域では弱者に括られる人でもあるのですが、そう言う不遇だと思っていたり、立場が弱い人同士で足を引っ張り合う構図にもなっていってしまっているのが、悲しい所でもあり、もっと特権的な地位にいる人を批判する見方を出来なくさせているようで、辛い要素でもあります。


 ただ秋は、自分が容姿も肉体的にも恵まれているので、あまり能力がない事で嫌われるなんて事態に遭遇した事はないでしょうし、周りのそんな小競り合いも気づかずに来たのかもしれません。

 もしかしたら、意図的に母親がそれを見せないように、秋の目を逸らせていた可能性も否定出来ません。


 だから、わたしはそう言う攻撃やいじめ、そんな諸々の負のエネルギーに相当に嫌悪感を持ってもいますが、理解をしてしまう部分もあるのです。


 ただ自分の感情としては別です。

 わたしも辛かったし、姉の辛さも見て来ているので、呪詛や怨念と言えば大げさかもしれませんが、世の中の構図や人々の不寛容とでも言えばいいのか、とにかく異端を攻撃する性質をトラウマ的に許せないでいるし、呪いのように自分に負の感情として付きまとっている事は告白しておこうと思います。


 よく辛い過去も後から振り返れば愛おしくなるなんてお説教をする人がいますが、あれは本当に地獄を見る境遇に陥った事のない人の戯れ言だと思います。


 わたし程度でも、いつまでも呪いは消えませんし、トラウマを癒やす事は中々難しいのです。

 だから、もっと辛い人はどれだけそれに囚われて、精神を病んで、それでも生きようとしていても、発作が起こったりトラウマに苦しんだり、ずっと繰り返しているのじゃないですか。


 それを見ずに、辛い経験は美談になるみたいな言葉を吐くのは、無責任ですし無自覚の暴力である様な気さえします。


 それだからこの機会に、少しは秋も他者の暴力性にも目を向けて貰って、この世界の理不尽の対処の仕方を、最善はないにしても、様々な模索をしているわたし達に寄り添ってくれるなら嬉しいなと思ってしまいます。



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