第8ー5話凄く近い二人
エミリーとその後よく話すようになって、色々情報を収集しながら、何やら自分なりに楽しんでいる様子の秋を見ていて、わたし自身が言った事ですが、もうちょっとわたしの好みとかお勧めとか聞いてくれてもいいのにな、とお姉さんのエミリーに嫉妬してしまいそうになります。
いや、秋にも嫉妬してしまっているのかもしれません。エミリーはわたしのお姉さんであって、秋のではないのです。エミリーはわたしをもっと優先すべきではないでしょうか。
でもこんなに面倒くさい性格をどんどん拗らせていったら、秋もその内わたしの事を嫌になってしまうかもしれないと思うと、何も言う事は出来ず黙っているだけでした。
しかし肝心な所は鈍い癖に、妙に鋭い直感を持っている秋は、目ざとく聞いて来ます。
「ねえ、何だか不機嫌になってない。私、何かしたかな」
「別にそんなんじゃないから、秋に怒ってる訳じゃないし」
「もしかして体調悪い? 横になってた方がいいんじゃないかな」
うーん、優しい気持ちに常に触れていると、安心する心を持てるのでしょうか。今一つまだ戸惑う気持ちの方が大きい気がします。
「そうじゃないったら。大丈夫だから。秋は気にしないで」
「うーん、最近ちょっとずつ、月夜の口調が柔らかくなって来てると思ってたけど、変に遠慮しなくていいからね。と言うか、こっちが居候なんだし」
打ち解けて来ていると言いたいのでしょうか。でもわたしは秋に恋しているのを認識したんじゃないんですか、あなた。
慕っている相手が家に一緒にいたら、それは緊張してしょうがないとかそんなレベルじゃないですよ。
しかも、わたしの態度はそれに関連するものではない。
「ああ、わかった。段々じっくり観察していると、語らない言葉の中にどう言う気持ちが込められてるのか見えて来るねぇ。構って貰えなくて寂しかったんだね。うん、こっちにおいで」
違う、いや違わないのか、わたしは嫉妬してたんじゃなくて、寂しがってただけなのかしらと疑ってみるけれど、わたしの気持ちをそんなに理解しているつもりになって得意になってるこの女、ちょっと調子に乗ってないですかね。
そうは言うも、つつつとわたしは秋の方に寄って行きます。
「別に寂したかったんじゃないし。ちょっとダウナーな感じになってただけだよ。と言うか、秋はわたしに何するつもりなの」
近づくと秋はぎゅっと抱擁をして来ます。この子は抱きつき魔なのか、わたしを抱き枕と同じ様な扱いをしているのか。
嬉しすぎて抵抗する事はしませんが、無防備に攻めすぎじゃないですか。わたし、ますます勘違いしてしまいそうです。
「あ」
顔を見つめられて、目と目が物凄く接近して、あり得ないくらい胸が高鳴って来ます。こんなに密着していて、心臓の音が聞かれないか心配ですが、よく考えれば惚れられてる相手に優しくしすぎる秋は、普段から人気者でもあったし、感覚が麻痺しているのではないかとも穿って考えてしまい、いやそれは運動部の変な接触ありの関係性がこうなるのかも、しかし皆がこんなにぎゅっとしては来ないだろうし、秋はもしかしたら愛情に飢えているのかしらと思っていると、秋の目が近い近い。睫毛綺麗だしとっても長くて、何でしょうかこの美少女は。
それに前もそうでしたが、秋はとんでもなくいい匂いもするのです。
あれ、相手の匂いが気持ち悪くなかったり、好感触なら性的な相性がいいんじゃなかったかと思い出して、そう言う遺伝子レベルの話は、同性でも有効だろうかと思いながら、ドキドキして目が離せないので。
「そんなにしたら、キスするわよ」
ちょっとこっちからも反撃してやろうと思って、つい攻撃的にそう言ってしまうのですが、秋にもちょっとは効いたみたいで。
「ええ。そっかスキンシップ過剰だったか。でもそれならこっちからサービスするだけならいいのかな」
ちゅっ。頬に口づけされました。・・・・・・この女たらしとここは声を上げるべきなのかもしれません。
それとももうわたしもなりふり構わず、秋にキスしてやって、わたしの欲望を我慢し続けない方向に持って行ってやろうかと、どれだけ思った事か。
しかしわたしが取った行動は、顔を隠しつつ秋の体に密着しながら、抱きついて黙っているだけしか出来ませんでした。
「ああ、ごめんごめん。悪ふざけが過ぎたね。時々、無神経だって言われるんだ。でも月夜があんまりにも色っぽい顔つきでこっちを見つめるものだから、しょうがなかったんだよ。口にするのはマズいだろうし、こっちもまだそれは恥ずかしいし、って月夜はそっちの方が良かったのかな?」
ふるふるしながら、秋の言葉を聞いて、もしかしたらもっと関係を育めば、秋もわたしの事をそう言う意味で好きになってくれるかもしれないと淡い期待をしていっていいのだろうかと悶絶しつつ、変な告白を口走っていました。
「あ、秋ぃ。好き! 好きなのぉ。そんなのされたら、我慢出来なくなっちゃうよぉ。どうしてそんなに秋はわたしを困らせるの。そりゃあわたしも挙動不審で秋を困らせてるけど、でも秋がわたしを放ったらかしにするのが悪いんだからね。ちょっとはこっちを見てよ。変な期待させる様な事するんなら、本当におかしくなっちゃう。期待していいの? わたしなんて秋が思ってくれるほど、いい所なんてないし、すぐに誰かに取られちゃうんじゃないかって不安なの。傍にいるなら安心させてよ。ああ、好き!」
わたしはつい先程の記述で我慢していると書きましたが、ああもう限界のようです。秋に覆い被さって、どうにかしてしまいそうになります。
顔が近づきすぎて、唇が触れそうになってしまってから、わたしはハッとなって途端に恥ずかしさが最高潮になったので顔を離すと、秋も何だか顔をほんのり赤くしています。意外。
あなたは、攻めるのは無邪気に出来るけれど、攻められるのは苦手なのですね。ふーん、ネコよりタチが性に合ってるって訳。
「ご、ごめんなさい。こんな事するつもりじゃなかったの。嫌いにならないでね」
「う、うん。どういたしまして・・・・・・」
何だか変な空気になってしまったので、わたしは居間から部屋に逃げて行ってしまって、ぼーっとしていました。
そして、喉が渇いて部屋から出て来たら、書き置きがあって、頭を冷やして来ると書かれてありました。
その時にわたしは、もっと普通の形式も書いて、わかって貰う努力もしなければ、と思ったのでした。
あれから普通の態度を取っていますけど、お互いどこかぎこちない感じがします。
その割には秋はまだわたしの部屋にいるのですが。それでもわたしとしては、何か感触があった気もしていて、もっと何かわたしからアプローチをしていけないかと思案しているのですが、わたしは自分の胸に手を当ててみて、秋を上手く口説き落とす、なんて出来る訳ないと思い、秋の無自覚なジゴロっぷりを想像するととてもあんな恥ずかしい真似は出来ないと顔を赤くするのです。
ですが、ボードゲームでも膠着状態にある時は、何か仕掛けないとどうにも転ばない訳で、千日手になってしまってはいけないのだから、じゃあ自分に何が出来るかと考えてみて、あれれ大胆な告白まで発情気味にしてしまって、押し倒したりまでして、まだ初心な反応をわたしはしているのかと自覚をすると、途端に何てわたしは恥知らずの色欲の暴走で秋に無礼を働いた、危険な存在なのではないかとも思うのですが、そうするとよく秋は逃げずにわたしの部屋に居座り続けるものだと思います。
よく変に手を出してセクハラ告発される男性が、相手が誘っている素振りを見せたからだと、苦しい言い訳をしている報道を目にしますが、わたしも秋があんな事があったのに無防備に家にいながら、話はしてくれるしその声色は優しいそれですし、ただ多少いつもより強ばっているかもとは思いますが、まさか秋はわたし相手に緊張しているのでしょうか、それでいて尚わたしに気を許しているなら、事に及んでも文句を言われる筋合いではないのではないか、なんて前述の男の様な考えになりそうで、でもどうにも自分が悶々と日々過ごしているのに耐えられなかったのです。
そこでどうしようかと悩んだ末、交友関係も広く彼氏とかも作っている子とも付き合いのある野分ちゃんに相談したのでした。
そうすると、爆弾発言。
「そんな未遂に終わっちゃったのなら、今度キスしてみれば。あ、でも口は駄目かもね。ほっぺとかおでこにするとか。マニアックな箇所も変に思われるから駄目だからね。これは一応釘を刺して置くけど」
うーん。しかしどう言う状況でキスなんて出来るでしょうかと小一時間悩みました。
大体、手を繋ぐだけで舞い上がってしまうわたしなのに、自分からキスを仕掛けるなんてあり得ますかと聞きたいですが、野分ちゃんはアタックあるのみみたいな、壊れたアドバイスの鬼みたいになっているので、これは対策を考えるしかありません。
しかし野分ちゃんの友達は、まさか付き合ってる相手ともう既に物凄い関係性まで発展しているのでしょうか。
一昔どころじゃないほど昔から、若者の性の乱れだとか、安全なセックスの仕方なんて叫ばれ始めていたりしながら、大人が未成年といたすと速攻で捕まる案件も後を絶たなかったりしますが、いやはやそこまで性に目覚めていく思春期の気持ちが、今更ながらわかって来たかもしれません。
やはり今までのわたしは、人間を拒否していたので、潤いがなかったのでしょうね。
まあ恋愛するのが至上命題だと言うつもりもないし、趣味に生きるのを捨てる訳でもないし、個々人が好きに生きればいいと思いますが、わたしの身になって考えると、恋愛一般を意識しないでも、秋を思い浮かべるだけで恥ずかしい気持ちになったり、いけない気持ちにもなったり、多幸感に満ちて来たりしてしまうのは、避けられない事ですので、当面の問題として向き合わざるを得ません。
姉の事を思い出すと、いつも罪悪感でいっぱいになるので、このままでいいのかと自問しそうになるのですが、何故かわたしはその件を考えないようにしているらしく、脳の診断メーカーで言うならば、ほぼ全ての構成が恋する気持ちで満ちている、頭の中ピンク色のお目出度いアホな女学生と言う構図になるのですよ。
で、機会を伺って、それでも秋を観察していて、こちらに秋が目を向けてくると、緊張してしまって顔を背けてしまったりして、中々何もする事が出来ません。
普通に本の話や学校の勉強の話題なら、何も問題なく話せるし、秋も一時より自然な感じになっているようです。
しかしある時、わたしがお風呂から出て来て、飲み物を入れていると、秋の反応がないので様子を確認してみます。そうすると寝入っていました。
ピンと来たわたしは、そろりそろりと近づいて、秋の寝顔をじっくり眺めます。相手から見返される心配がないと、わたしはじろじろと見つめる事を羞恥心があっても出来るようです。箱男みたいな状態なのかなとかちょっと想像してしまいました。
「ん・・・・・・」と寝息を立てる秋を見つめていると、ああなんだかおかしくなって来そうです。
しかし、よく考えてみると、秋と仲良くなって来てから、ちょっとはパニックの発作になる事が少なくなっていっているし、今だって危険な状態にはなっていません。
胸がドキドキなのは変わりませんけど、これは収まる類のものだと、その感じの違いでわたしにはわかります。
と言うか、何ですかこの美少女は。唇に吸い付きたくなりそうで、誘惑に負けそうになって、ブッダはどうやってそう言う悪魔やら何やらの誘惑に打ち勝ったんだと疑問に思うほど、わたしは今煩悩に支配されています。
しばらくしてようやく落ち着きを取り戻して来たわたしは、そおっと秋の顔に自分の顔を接近させていって、その柔らかそうな頬に特大の緊張をしながらキスをしてしまいます。
ああ、何ていい感触でしょう。わたしみたいなのが、秋にこんな風に触れてしまっていいのかと思って、まだまだ陶酔しながら秋を見つめていると、「うん・・・・・・」と言って秋は身を起こします。
あ、これはヤバいと思いながらも固まっていると、秋はぼんやりしながらわたしを見つめて、目と目が合い、まさかコミュニケーションブレイクダウンになってしまわないかと青ざめていると、秋の頬にさっと朱が差します。
「今、月夜。・・・・・・ええっと、ああ、私お風呂入って来るよ。それじゃあ」
と言って、逃げるように居間を出て行きます。・・・・・・あのー、自分は無自覚にやっても平気なのに、される側になったら意外とへたれるんですね、あなた。
そう言う面を見て、わたしは秋の事をもっと可愛いと思うようになってしまいましたし、それならまだまだ困らせてタジタジにさせてみたいとも思うのですが、わたしにその勇気はあるでしょうか。
でも自分の中で何かが革命されそうで、自己のアイデンティティも崩壊しそうな気がしていて、もうどうにも止まらない状態と言えると思います。
ですから、言い換えれば、わたしはますます秋に惚れ込んでいって、依存しているんではないかと思えるほど、わたしを秋が占めているのでした。でも秋はわたしの事をどう思っているのかしら。
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