第2話
「休み無しかよ、しかもこの薬..。」
違和感のみの空間は、いずれ常識になるのか。
そうなったとき、僕らははっきりと〝間違っている〟と言えるだろうか?
「ていうかどこ此処?」
『ホテルです、良いホテルー!』
「うおっ..何でいんの。」
手首に巻いた小さな画面から、部屋にいた女の声が聞こえる。
「見ればわかるよ、なんで場所変わってるかっていってんの。ていうか何これ、腕時計じゃないの?」
『質問が多いデスネー、面倒なので箇条書きでお送りしマス。』
「箇条書きで送るってなに?」
『また質問、見ればワカリマス。』
電子文字が眼前に浮き上がり、情報として現れる。
「あ、こういう事」『ソウデス!』
「どれどれ。」
仕事は二回目以降から場所を変える。
場所は、ターゲットによってランダムに決められ、そこに点在する者は左手首にハンドヴィジョンの装着を余儀なくされる。
「ハンドヴィジョン、これか」
スカした名前の針のない腕時計が危険を知らせる警告機の役割を果たす。
「助けてくれるの?」
『基本的には何もしませんよ!
何か聞かれれば答えます、道案内とか
できれば何も聞かないでくだサイ!』
「要はあんまり役に立たないって事ね、何かあったら適度に聞くよ..。」
〝ただいるだけ〟という在り方を全うするつもりだ、期待はできない。
「逃げ道無いならやるしかないな..」
渋々ホテルの廊下を歩く、良いホテルなので床が柔らかく滑らない仕様になっている。
「修学旅行とかで見る床だ」
足音の鳴らない事を駆使して女部屋に入るのだ、そんな経験した事無いが。
「廊下には居なそうだけど..
何処にいるんだ、聞いてみるか。」
早速不安定アシストに頼る、起動は声何か言えば取り敢えず動く。
「ヘイ!えっと...」
『そういうのじゃないデスー!』
「序動教えといてよ、わかりやすく」
機械は名前は掛け声でと安易なやり方をしてみたが難しかった。
『言われないと分からないドグサレですね、普通でイイんデスヨー!』
「口悪っ..さては慣れてきたな?」
これ以上余計口を叩くとマウントを取られかねないので標的のいるであろう部屋の番号のみを問いかけた。
『32号室!』
「..すぐそこだ、敢えてなのかな。
知ってて教えてないとか。」
『うるせぇ!
なら聞くんジャねぇヨ!』
「当たり強いっ!」
「出てけオラっ!」「ひっ!」
「なんだ?」
部屋の扉を弾いて怒号が人を追い出した。出てきたのは、背の高い女。
『あそこです!あそこ32号室!』
「て事は...あの声。」
筒抜けの部屋から案の定が形になる。
写真よりも顔は厳つく、近寄りがたい
「あ、祐くん!」
「なんか呼んでる、何祐くんって」
「祐くん、祐くん!」
「怖っ何あれ怖っ」
『多分アナタの事ですー!』
「僕じゃなくない?
大造だよ名前、間違えないよ多分。」
『ダイゾウ?』
「それはよく言われる」
〝いばらぎ〟的な間違いくらいは名前が〝たいぞう〟なのであり得るが、本気で間違えて祐くんなら流石にやりにいっている。
「祐くんってばー!」
「..あぁ?
お前知り合いか、彼氏だろ」
「いや違いま..」「彼氏だろ!!」
全力の言い掛かり、聞く耳は無し。
「そうでーす!」「え?」
「やっぱそうじゃねぇーか!」
「いやだから違うってば。」
追い討ちをかける誤解と嘘、こうして流され都合は誰かの理想に変わる。
「そんな事より祐くん大変なの」
「大変って何よ?」
思わず聞いてしまった、やめとけばいいのに。
「どうしたもねぇよ!
そいつが勝手に部屋に来て、マジックを見せるって聞かねぇんだ!」
「は..?」
「見せたかったの、トランプのカードが消えるやつ。」
「イカレてやがんのかてめぇ!?
彼氏ならきちんとしつけておけよ!」
「すいま..せん。」
馬鹿馬鹿しいが、きちんと怒られている。こんな理由で。こんなトリッキーな災害の為に。
「あの..」「あぁ、なんだよ?」
「一本いかぁっスかぁ..!」
「あぁ!?」
意味も関係も無いが、急なトリッキーに準じて温めていた懐のタバコを差し出した。
「...いかぁっスか?」
「……バカ!
それなら持ってるっ言うんだよ。」
胸ポケットから似た銘柄の箱を見せ間に合ってると切り捨てる。
「ああ、そう...」
「もう何やってんのよ〜!」
何故か突き飛ばされ床に転がされる。
勇気を出した試みが、只のおっちょこちょいとして処理されてゆく。
「...ったく、情けねぇな
もう二度と来んなよ、二人揃って消えやがれ。」
一本引き抜いたタバコに火を付け煙を吹かしながら、扉を閉めて部屋に篭った。
「はぁ...ダメだったか。」
完全に、機会とタイミングを見失う。
「これ落としたよ?」「え..」
謎の女の手元には煙草の箱が、飛ばされた衝撃で手元から離れていたようだ
「..有難う。」
「それ、タバコじゃないでしょ?」
「え?」「パッケージの模様が違う」
パッと見は区別がつかないが、よく目を凝らすと微妙にデザインが異なるようで彼女はそれを見逃さなかった。
「目が良いんですね」
「目じゃなくて感覚よ、観察や洞察には慣れてるの。」
「はぁ..なるほど」「信じてないね」
自信ありげな風格、しなやかな指と細やかな感性、要素で何となくわかる。
「あなた、マジシャンですか?」
「..勘が良いわね、次いでに教えてあげる。今アナタが持っているそれは、しっかりとタバコの箱よ」
「...どういうこと?」
いよいよ意味がわからなくなってきた
「更に教えといてあげる。
私はマジシャンだけど、職業はスパイ
卑怯で姑息な女忍者よ?」
「......。」
カテゴリの渋滞が起きている。トリッキーの入れる駐車場がもう無い。
「結局何者..?」
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