ジョブズルーム

アリエッティ

第1話

「おっはようござい!」

「え、何処ここ⁉︎」

目覚めたらそこは知らぬ部屋、ベッドの上でテレビを見ていた。

「あらお目覚め?」「白衣...何コレ」

「それは貴方のユニフォーム。

職業は〝メディスン〟だよ、多分」

訳のわからぬ事を言う画面の中の陽気な女。揶揄っている訳でもなさそうでかといって真面目な印象も無い。


「職業って何!

ていうか君は誰!?」

「職業っていうのはね

君に割り当てられた遣り方だよ!

あ、そして私の名前はケリーだよ!」

どうやら何らかを全うする為のあてがわれた姿らしい。

「なんでそんな事やらされてる!

なんで俺が偉ばらた、何処だ此処!」

「さっきから質問多いしいっぺんに言い過ぎ、答えますケドネー!」

何故か語尾がカタコトになるお茶目娘ケリー、純正の日本人である。

「〝裁判員制度〟ってあったでしょ?

今もあるケド、それと似たようなもので。ランダムに選ばれましたー!」

「ランダムって適当って事かよ。

何やらす気だよオレに今からっ!」


「考えたら負け、感じろデス!

右ポケットに手を入れてみて!」

「右ポケット..?」

言われるがまま手を突っ込むと、二つの錠剤が入った小さな袋が指に絡み付いてきた。

「何コレ」「カプセル粉末ですね!」

「カプセル粉末?

ダメだ、よりわからん。」

「それを飲ませて下さい!

薬の形状は毎回変わりますカラ!

それではターゲットを発表します!」

画面に高速で様々な顔が連続で表示される。徐々に速さは遅くなり、やがて一つの顔を大きく映した。

「決定しました!

この方は今食堂に居ますね、12時間以内に薬を投与して下さい。遣り方は自由ですよー!」

「ちょっ、ちょっと待て!

どういう事だよ、何で薬を⁉︎」

「あ、ちなみに食堂は部屋を出て真っ直ぐ進んだ正面の先です!

今は丁度お昼の12時、運がとても良いですよねー!」

「だから何なんだよ!?

 意味がわかんねぇの!」

「えー!

仕方ないなぁ、一度しか言いませんよ

よーく聞いてくださいね?」

溜息を吐きつつ頭の固い男に説明を施す、説明はこの通りだ。


施設内の人には一つ職業が割り当てられる。部屋が一つ用意されそこのテレビにて指示を受ける。指示は毎回ターゲットを決め、仕事をすること。

「お判りですか?」

「..多分だけど、わかんなくても教えてくれないでしょ。」

「はい、そう言ったんで!」

「……」

画面に背を向けて、静かに部屋を出た

「まだ外に何かあるかもしれない」

謎の言葉を残して食堂へ向かった。

「嫌なもんだな、画面で見た顔を凄くはっきりと覚えている。」

そして扉を抜けた先にいるのだ、逆毛で釣り上がった細い目の男が。すぐさま適当な食券を買い逆毛で釣り上がった細い目の男の隣の席をキープ。

「強面の具現化のような男だ、毛は逆立って釣り上がった細い目をしているアレに薬を盛るのか?」

口に出してしまう程特徴的な細い目と逆立った毛をした男の食事は似合わず

温かい味噌汁と柔らかいサバの味噌煮という、日本のポピュラーな材料が使われたハートフルメニューだった。

「胃に優しいな、だけも味噌汁である事が功を制した。粉末を溶かしやすいからな」

白衣のポケットからカプセルを取り出して汁に傾ける。

「もう少し..!」

少し角度を落とせば、最早勝ち。

何が起こるかはわからないが、指示を遂行する事が出来る。

「23番のお客様〜」

「...23番?」

馴染みがあった、試しに左のポケットに手をやった。

「俺か..」

すんでのところで食事が届く、簡単にこなせるものではないようだ。

「早く戻らねば。」

番号札を渡し、食事を受け取る。

「どうぞー」「ども。」

「じゃがバタ定食..ご飯すすむ?」

適当に選んだ飯は、好みの別れるトリッキーな品だった。

「ふぅ..」

さっさと終わらせて部屋に戻ろう。

強くそう思った。


「思ったよりちゃんと芋だな..」

マヨネーズを付けてもまぁまぁ飯は食らえない、パサつきがバームクーヘン級に水分を吸着する。

「あれ?

それじゃがバタ定食ですよね」

「え、あ..はい。」

いきなり何だと正当な警戒を強いる。

社交性が怖い、気さくは凶器だ。

「これ、ソースです!」

「ソース...ですか?」

「マヨネーズかけましたよね?

ソースかけると、少し食べやすくなりますよ。」

「へぇ、そうなんだ..」

「試してみて!」

言われるがままソースを貰い、米にかける。確かに色合いや雰囲気は、お好み焼きのそれに近い感じだ。

「いただきます」

箸ですくい、口に運ぶ。

「......」「どう?」

「うん、うまい。」「でしょ!」

初めは少しクセがあったが、何度か咀嚼をすればスパイシーな風味へと変わった。

「僕も結構それ好きなんですよねー、慣れるとホント美味しいですよ!」

釣り上がった目が優しく垂れ下がる。

「そうなんですか...。」

意外に良いやつだった、強面なのに優しかった。

「なんか久し振りに食べたくなってきちゃったな、一口いいですか?」

「え..」

「あ、すいません。

失礼ですよね、ごめんねさい」

「ああいや、どうぞ。」

「え、いいんですか!?

有り難う、本当に、有り難う!」

朗らかに笑う、そんな顔知らなかった

「あ、これどうぞ!

変わりとはいえないけど美味しいから

あったかいよ、味噌汁!」

「えっ..」

都合よく汁物が晒し者に、隙が大いに空き無防備な状態。彼の懐は今住みやすい1LDKに暮らしている。

「今しかないよなぁ..」

しかしやりにくい、バックボーンを知ったから。他人の関係でいたかった。


「ごめん..!」

かといってやらない訳にはいかない。やらずに逃せば、こちらに何が待っているかがわからない。結局己が可愛いのだ、身を守る事が優先される。

「えっ!?」「....なに?」

感づかれたか。

考えてみれば相手も職業持ち、お互いにターゲットとして接していてもおかしくはない。

「もしかして..口に合わなかった?」

「いっやいや!

そんな事ない、美味いよ?」

「ホント⁉︎

良かったぁ〜、美味しいよねそれ!」

そういう事じゃない、違うのよ。」

一口啜った味噌汁はとても温かく、優しい味をしていた。その後の味はわからない。

「有難う、美味しかった」

「そう?

良かった、僕も有り難う。」


「それ、食べていいよ」「え?」

「やる事あるの思い出してさ、時間ないから食べてよ。」

「う、うん..」「じゃあね!」

一方的に別れを告げた持ち場へ還る。正しくは〝隠れ家に逃げる〟だ。

「ふぅ..」

「おかえりなさい!」

「他人事だと思って、大変だったんだから。」

「ご安心を!

画面をご覧下さいませませ!」

「はぁ..。」

画面には、顔に大きくバツが書かれ赤字で『成功』の文字。顔の脇には丁寧に名前まで記されている。

「榎木祥吾って言うんだあの人..教えてどうするの今更。」

「イイデスネ!

仕事をこなしてので報酬をあげマス!

冷蔵庫を開けてくださいな!」

「冷蔵庫?

..あぁ、気が付かなかった」

テレビの脇に、小さな白い箱があった

中に報酬があるというが、金の類を保冷しておく必要は無い。

「なにコレ?」

「ナルトですー!

報酬は、仕事ぶりによって程度が異なるのです!」

「ああ..そういう事。」

あってもなくてもいい事、単純にそう理解できた。

「あれって毒なのか?

味噌汁に入れたけど、死なないよね」


「さぁ?

それよりナルトはどうですかー!」

「...美味い。」

棒のままかじったのはいつぶりだろうか、下手に味が滲みる。

「それでは次のお仕事です!」

「え、また?」

再び画面に顔が流れ、同じ形で特定される。

「ターゲットが決まりました!」

「げっ」

スキンヘッドにサングラスを掛けたまたも強面の男。

「こんなのしかいないの?」

「お薬の形も変化してますよー!」

「え、あ..」

入る所は変わらず右のポケット。

「これって...」

「それでは、いってらっしゃ〜い!」

「あ、おいっ!」


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