白い息

ほぅ…

それは白い息だった。

夜空は、漆黒の闇とでも言えそうなぐらい、黒かった。

私には星が、見えなかった。

今、年を越す時の恒例行事がある神社に来ている。

まぁ、恒例行事って言っても、

「あけおめー」って言って、

初詣して、

十五夜の鐘鳴らすだけなんだけど…

その十五夜の鐘の近くには星空が見える所がある。

おばあちゃんはいつも此処で星座を教えてくれていた。

-あれは何座?-

-あれは、白鳥座よ。ほら、赤い星が見えるでしょ?-

-あー!本当だー!-

ここでの思い出は沢山ある。

おばあちゃんの声も、笑顔も、あたたかさも、星空でさえも、何もかも、

今は無い。

ほぅ…

もう一度白い息が浮かんだ。

そして消えていった。

思い出も消えそうで怖かった。

息のように。

「なーにやってんの?」

「わっ…驚かさないでよ。そっちこそ。何してるのこんな夜中に。」

「いやいや、初詣だし。夜中でもいるよ。おばあさんは?いつもいるでしょ?」

「そう…だよね…いつもいたよね…」

冷たい風が吹く。こころに突き刺さるような冷たい風が。

「どんな人だった?」

「いい人だったよ。とっても。面白くて、優しくて、さっぱりしていて。ズバズバものを言う人で。大好きだった。でも、心筋梗塞で…亡くなったの。なんでだろうね。なんでこうなるんだろう。なんでいなくなるんだろう。」

気がついたら、なんでも話してしまいそうな。そんな気がした。

本当に優しくて、面白くて、料理が上手で、暖かくて、大事なことを教えてくれる。そんなおばあちゃんが大好きで。

心筋梗塞で、死んだ時。

何も言えなかったこと。

見たいわーって言ってた、将来の姿を見せてあげられなかった。

「なんで死ぬんだろう。何も、できていないのに。」

隣の彼を見れば、彼は、何処かを見ていた。何も無い、何処かを。

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