第5話 また会う日を楽しみに
『魔導回路回復率、100%』
今日という日をどれほど待ち焦がれたのだろう。
ネリネが俺の命を救った時、後悔と自責の念に苛まれながら彼女の体を抱え、俺はプラネラワ国から脱出した。他国にいる研究者である友人に事情を説明し、彼の手を借りたのだ。その後、使われなくなった小さな研究所に匿ってもらい、俺はたった一人でネリネの修復にあたった。
魔導電子網のハッキングは難しかったが、彼女のためならどんな困難も後超えてみせる。幾度も心が折れかけたが、もう一度ネリネの笑顔を見るためにと、必死に努力を重ねた。機体の損傷も激しかったので、俺はネリネのデータを引っ張り出すだけでなく、また一から魔導人形を作り上げたのだ。
そして一年経った今日、ついに彼女の記憶データ修復は終わった。
「ネリネ、さあ……起きてくれ」
ポッドの横にあるレバーを引き、魔法駆動式機械オルガンとポッドを繋ぐ管から光が流れ、ネリネの機体が眩い光で溢れる。彼女が初めて目覚めた日を追憶しながらその光景を見守り、ポッドの中に目を凝らすと、ネリネは薄っすらと目を開けた。
「あ……アルタイル……?」
ネリネは麗しい微笑を浮かべ、ポッド内から俺の名を呼んだ。彼女が無事に稼働したことだけでなく、記憶回路に障害が生じず、ちゃんと俺のことを覚えていてくれたことが、非常に喜ばしかった。
俺はぐっと涙を堪え、ポッドの蓋にあるボタンを押す。ウィィンという機械音と共に上蓋が開かれ、ネリネはすぐさま起き上がった。彼女の目線に合わせてしゃがみ、俺はネリネに挨拶を交わす。
「やあ、おはようネリネ」
「ええ、おはようございますアルタイル。ずっと……ずっと会いたかった」
するとネリネは感涙に咽び、俺を抱きしめてきたのだ。俺もまた今まで耐えてきた苦しみや嬉しさを瞳か溢れさせ、そっと彼女の背に腕を回す。互いの瞳からはとめどなく涙が溢れ、静かな研究所内に男女の咽び泣く声が響く。
「なあ、ネリネ。君にまだ、伝えていないことがあるんだ」
「私もです、アルタイル。あの日に伝えられなかったことが、私にも……」
そしてどちらからともなく、俺たちはそっと唇を重ね合わせた。
これでようやく、俺の思いが報われる。
ネリネの花言葉通り、また会う日を楽しみに、今まで生きてきたのだから――。
ネリネ ゆにえもん @1125Hugo
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