にゃんにゃんにゃんの日特別番外編 3-1.美弥子、困惑する。
……昨日は、酷い目に合った。
プリンちゃんと寛いでたら、突如魔王様が現れてさ。プリンちゃんを襲うわ、わたしをメジャーで締め上げるわで、もう大変だった。恐怖と苦しさで気絶しそうでしたよ。
プリンちゃんも、最終的に捕まった挙句メジャーで雁字搦めにされたもんだから、その後の機嫌が悪い悪い。少しでも心穏やかになって貰おうと、首回りを中心にマッサージをしたんだけど、あんまり効果なかったかも。帰り際、今週の飼育当番であろうお兄さん達に蹴り食らわせてたし。
そんな事があった、次の日。
「……え、何これ」
私は何故か、リボンやレースで飾り付けられた台の上へと、乗せられております。
しかも、たすき的なものを肩に掛けられて、一層よく分からない状況です。
背後にあるカンガルー達の寝床的な建物も綺麗にデコレーションされてるし、文字らしきものが書かれた色紙が、壁に大きくドドンと貼られてます。
もう一度言おう。
何、これ。
『ミャーコ――。――――――――、―――――』
熊さんを始めとした茶色い軍服のお兄さん達が、何やらめでたいって雰囲気を醸し出しつつ、拍手をしてる。薔薇の似合う綺麗なお姉さんと、大トロのお爺ちゃんも、一緒になって笑ってた。なんなら、魔王様までいる。
皆、何故か私の方を見ながら、わいわい楽しそうに喋った。
当の私を、置き去りにして。
因みに、いつもと様子が違うのは、人間だけじゃない。
「キュー」
「クゥー」
兄ちゃんと姉ちゃんが、台のすぐ傍までやっていた。耳や前足を動かして、陽気に私へ話し掛けてくる。
その頭は、何故か茶色い頭巾で覆われてた。
ただの頭巾じゃない。
猫耳付きの頭巾だ。
「……え、兄ちゃん、姉ちゃん。それ、どうしたの?」
それ、と指差せば、兄ちゃんと姉ちゃんは、ドヤ顔でポーズを決めた。
『どうだい、オイラの猫耳頭巾姿は。イカしてるだろ?』
『こいつを着こなしちまうなんて、アタイら位しか出来ないよ』
とばかりに、ノリノリで私に見せてくれる。相当ご機嫌らしい。まぁ、兄ちゃん達は、いつも大体ご機嫌だけど。
とか思ってたら、兄ちゃんと姉ちゃんの隣に、別の猫耳が現れた。
「チュー」
「プイー」
ゴールデンハムスターの赤身ちゃんと、三毛柄のモルモットの小トロちゃんだ。後ろには、カピバラの中トロちゃんもいる。
鼠トリオも、何故か仮装してた。
しかもこっちは、頭巾じゃなくて全身スーツバージョン。
いや、似合うし可愛いんだけど、何故全身スーツ? 頭巾の時点で異常事態なのに、その上をいかれると、こちらも反応に困ります。
その他のカンガルー達も、皆猫耳頭巾を被ってた。多分、これを用意する為に、熊さん達はメジャーでサイズを測ってたんだろうね。加えて、寝床に使ってる建物やなんかが飾り付けされてる辺り、今日は何かしらの記念日なんだろう。それも猫に関する何かの。
猫特化のイベントって、一体何だ? 全然思い付かないけど、取り敢えず、ハロウィンみたいなものなのかなぁと思っておく。
「でも……何で私には、猫耳頭巾がないんだろう?」
まぁ、そもそも着ぐるみ猫パジャマを着てるんで、既に猫の仮装をしてるようなもんなんだけど。
でも、一人だけ何もないというのは、ちょっと寂しい。変なたすきしか渡されなかった事実も、ちょっと悲しい。せめて衣装であって欲しかった。何だよ、このたすき。文字らしきものが書かれてるけど、何書いてあるのか分からないし。その割に、私がたすきを掛けた途端、やんややんやと拍手喝采を送られたし。何なんだよ一体。
「……ん?」
そこで、ふと気付いてしまった。
あれ? 今日はまだ、プリンちゃん見てないな、って。
更に、気付く。
あれ? プリンちゃんも昨日、メジャーでサイズ測られてたぞ、って。
正確には、あれは測られてたというか、縛り上げられてたって感じだったけど。でも、魔王様は何やらメモを取ってたから、多分採寸だったんだと思う。うん。
そう考えたら、当然プリンちゃんの猫耳頭巾もあるわけで。
あるという事は、当然プリンちゃんも被ってるわけで。
「……猫耳のプリンちゃんか……」
…………うん。
正直、めっちゃ見たい。
「プリンちゃーん? プリンちゃんいるー?」
辺りを見回しながら、声を上げてみる。ほぼ毎日見てるクリーム色の毛と、ぷりんぷりんな素晴らしい
しかし、それらしき姿は中々見当たらない。
すると、私が何を求めてるのか、分かったんだろう。兄ちゃんと姉ちゃんは、大人のカンガルー達をかき分けながら、どこかへ行ってしまった。
赤身ちゃんも、後に続く。「チュッチュー♪」と楽しそうな足取りで、とっとことっこと駆けていった。
数十秒後。
ちょっと離れた場所から、物凄い音が聞こえてくる。
文字にするとしたら、
ズシャアッ!
ドンッ、バズッ!
ドダダダダダッ! ズガァァァーンッ!
プゥゥゥゥゥーッ!
チューッチュッチューッ!
みたいな感じだ。
今日な一段と激しいなぁ。そんなに私と会いたくないのかしら。
とか思ってたら、突如竜巻がそびえ立った。
茶色い軍服のお兄さん達が、慌てて逃げ出す。
カンガルー達は、少し距離を取るや観戦モードに入った。いいぞーやれー、とばかりに、楽しげな鳴き声を上げる。
因みに逃げ遅れた私は、すかさず保護してくれたママと、庇うように立ち塞がってくれた大トロのお爺ちゃんと綺麗なお姉さんのお陰で、事なきを得た。
『――――、――――――――、―――――』
『――――、―――――――。――――――、―――――――――』
綺麗なお姉さんは、呆れたように竜巻を眺めた。対して大トロのお爺ちゃんは、やんちゃ坊主を見守るが如き温かな眼差しで、微笑んでる。
「プイー?」
つと、モルモットの小トロちゃんが、大トロのお爺ちゃんを仰ぎ見た。ト〇ロの如き太ましい足を、前足でトントコ叩く。
『――――。――、――――――。――――――?』
大トロのお爺ちゃんは、白いお鬚を一撫でしてから、視線を足元のカピバラへ落とす。
中トロちゃんは、「ヂュ」と顎を持ち上げると、唐突に歩き出した。喧噪の方へと向かう。
「え、中トロちゃん? どこ行くの? そっちは危ないよ?」
けれど、猫の全身スーツに包まれたカピケツは、止まらない。プリンちゃんの抵抗っぷりを見物してるカンガルー達の合間を縫って、あっという間に見えなくなってしまった。
もしや、参戦するつもりなのか?
「ねぇ、ママ」
「グーゥ?」
「中トロちゃん、大丈夫かなぁ。プリンちゃんの耳ビンタ食らったりしないかなぁ」
いくらプリンちゃんより体が大きくても、吹っ飛ぶ時は吹っ飛ぶからなぁ。私の口から、自ずと唸り声が零れる。
その一拍後。
地面を揺らす程の轟音が、辺りに響き渡る。
例えるなら、鋭く重い拳が肉体にめり込みました、みたいな音とでも言うのかな? パパ達が訓練してる時、たまーに聞く痛々しい音が、たった一回だけ、上がった。
ほぼ同時に、あれだけ吹き荒れてた竜巻が、かき消える。
……まさか。いや、そんな馬鹿な。
私は、信じられない気持ちで目を見開いた。視線は、カンガルー達の背中へと注ぐ。
十秒位経った頃だろうか。
つとカンガルー達の間から、猫の全身スーツを纏ったカピバラが姿を現した。
その口には、クリーム色の毛玉が、咥えられてる。
「ヂュ」
こちらへ戻ってきた中トロちゃんは、私が乗る装飾済みの台へ、咥えてた
『―――――、―――――。――――――』
大トロのお爺ちゃんに撫でられて、中トロちゃんは気持ち良さげに目を瞑った。小トロちゃんも、良かった良かった、とばかりに尻尾を揺らしてる。
そんな鼠達を横目に、私はクリーム色の毛玉を眺めた。
真ん丸で、手触りの良さそうな毛に覆われてて、下の方に短い尻尾が付いてる。時折微かに蠢いては、ギチ、ギチギチ、という音を奏でた。
これは、うん。間違いない。
見慣れた形状に内心頷きつつ、私はそーっと足を動かした。毛玉の反対側へ回り込む。
「わぁ……」
猫耳頭巾を被ったプリンちゃんが、凄い形相で歯を食い縛ってた。
眉間に皺を寄せすぎて、メモ帳位なら挟めそう。目付きも、「この恨み、晴らさでおくべきか」と言わんばかりに尖ってる。
ただでさえ鋭いのに、これ以上研ぎ澄ましてどうするのよプリンちゃん。まぁ、起き上がれない所を見るに、中トロちゃんから相当きつい攻撃を食らったみたいだから、悔しさもひとしおなのかもしれないけど。
「……プゥ」
私が凝視してたからか。プリンちゃんは、ちらと視線だけで私を見た。ぎゅむっと一層眉間へ力を込めたかと思うと、もそもそと小刻みに動き始める。這うように回転し、こちらへ真ん丸なウサケツを向けた。
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