31.密猟者、驚く。
複数の足音が、森に響いた。
布や面で顔を覆った男が六人、慣れた足取りで進んでいく。
木をすり抜け、落ち葉を踏み、目的の洞窟まで到着した。
隠れ家代わりに使っている洞窟には、既に他の仲間達が待機している。
洞窟にいた仲間は一斉に振り返り、見知った相手だと分かるや警戒を解いた。それから、抱えられた魔力封じ付きの捕獲用ケースへと、目を向ける。
「どうだった?」
「ばっちりよ」
おぉ、と歓声が小さく上がり、ケースを持つ仲間の元へ集まる。中にいるであろう商品を想像し、各々顔をニヤケさせた。
「やったな。これでしばらく遊んで暮らせるぜ」
「でも、よく捕まえられたな。相手は騎士団員だったんだろ? しかも隊長格が二人もいてよ。ぶっちゃけ無理なんじゃねぇかと思ってたわ」
「おいおい、舐めてくれちゃ困るぜ? 相手が騎士団員だろうが隊長だろうが、俺の手に掛かりゃあちょちょいのちょいよ」
「何言ってんだ。兎相手に情けねぇ声出してた癖に」
「な、情けねぇ声ってなんだよ。そりゃあお前の方だろうがっ」
ぎゃはは、と下品な笑い声が上がる。
「まぁ何にせよだ。無事捕まえられたんなら、さっさとここから離れようぜ。早くしてねぇと、聖域の警備隊が来るかもしれねぇ」
「あぁ、そうだな。じゃ、これ、頼んだぞ」
「おう、任せな。しっかり高値で売り捌いてきてやるからよ」
待機していた仲間へ、実行犯は捕獲用ケースを引き渡す。
「しかし……本当にそれ、
「あ? 何だお前。疑うのか?」
「だってよ。お前がカンガルーの袋から引っ張り出した奴、どう見ても黒い猫だったじゃんか」
「擬態してんだよ。あいつらの擬態は、ちょっとやそっとじゃ見破れねぇからな。俺達みたいに大して魔力のない奴らは特によ」
「って事はさ。仮に本物の猫だったとしても、俺らにゃ見分けが付かねぇって事にならねぇか?」
しん、と、洞窟内の音が、消えた。
「……いやいや。まさか、そんなわけ」
「でも、そうじゃねぇ? 大体俺は、最初から言ってたぞ。そもそも小人族が、猫に擬態して騎士団に保護されてるなんて話、絶対に怪しいだろうって」
「いや、でもそれはさ」
「どこから手に入れた情報かは知らねぇけど、あり得ると本気で思ってんのか? 小人族だって馬鹿じゃねぇんだぞ。擬態して保護されたなら、その時点で擬態解いて、聖域に連絡なりなんなり入れさせるだろう」
「だからあいつらは、今日こうして聖域に向かってんだろ?」
「保護されて三か月近く経ってからか? ないだろ」
「全くないとは、言い切れねぇんじゃねぇか?」
「それでも、可能性は限りなく低いと思うぞ。お前だって、本当はそう思ってんだろ?」
「いや、それは、でもさ」
「はいはい、その辺にしとけ」
つと、手を叩く音が洞窟へ響く。
「お前の言い分も分かるし、お前の言い分も分かる。だが、ここで変にまごまごしてるのは得策じゃねぇって事も、分かるよな?」
「まぁ……」
「そうだけどよぉ」
「だから、ここは一つ、さっさと疑問を解決しようじゃねぇか。なぁ?」
と、持ち上げられたケースへ、視線が集まった。
「何の為に魔力封じが付いたケースを使ってると思ってんだ? この中に入ったら、どんなに凄ぇ擬態をする奴らだって、本来の姿を晒す事になる。なら、ここに付いてる窓から中を確認すれば、こいつが本物の猫なのか、そうじゃないのか、一発で分かるじゃねぇか。な?」
ケースに付いた小窓の扉を指差し、仲間の男は笑う。
確かに、という空気が流れ、密猟者達はケースに集まった。閉まっている小窓の扉へ、視線を向ける。
「じゃ、開けるぞ?」
仲間の一人が、小窓の扉を、そっと開く。
透明な板越しに、ケース内が見えた。
中にいたのは。
「……え?」
男達は、目を見開き、瞬かせた。
何も見えない。
何も、いないのだ。
ケースの角度を変えて隅々まで確認しても、小人族も、猫の姿も、どこにもない。
「そ、そんな馬鹿なっ!」
実行犯は、堪らずケースの蓋を開けた。大きく広げて、改めて中を見やる。やはり、何も、誰もいない。
ただケースの底に、子猫が一匹通り抜けられそうな穴が、ぽっかりと開いているだけ。
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