20.テディ、再び隊員達とデイモンを見守る。
「あぁー」
獣舎へと続く扉の前にいたテディ達第四番隊隊員は、一斉に溜め息を吐いた。
扉の隙間からは、中途半端に手を伸ばしたデイモンが、しゃがんだまま項垂れているのが見える。
デイモンのすぐ傍では、カンガルーのマリアが「なんか、すいません、お力になれず」とでも言わんばかりに、前足を擦り合わせていた。
「もー、駄目だっぺよデイモン隊長。真上から撫でようとしたら、猫っ子が怖がるに決まってっぺ? 下からそっと差し出すだよ、そっと」
「いや、でも俺、隊長の気持ち分かるわ。漸く猫が近付いてきてくれたんだもんなぁ」
「しかも、手の上に乗ってくれたりしてさ。あの温もりと柔らかさを知ったら、そりゃあ触りたくもなるって」
「だからって、あんなぐわーっていかなくてもいいっぺよ。猫っ子からすりゃあ、頭の上から勢い良く天井が落ちてきたようなもんだべ? あそこでぐっと我慢してりゃあ、ドライベリーで仲良し作戦も、ちっとは上手くいってたかもしれねぇのによぉ」
「まぁなぁ。俺達に内緒でわざわざ高級ドライベリー用意してまで挑んだのに、あれじゃあなぁ」
「いや、だからしょうがないって。隊長だって分かってんだろ。ちょっと喜ぶのが早かったってさ」
「だなぁ。なんせ猫が掌に前足掛けた時の動揺っぷり、凄かったもんなぁ。何もあんなビクつかなくたっていいと思うけど」
「それだけ嬉しかったんだろ? だからこそ、戦況を読み間違えたんだよ」
「あー、成程なぁ。デイモン隊長、結構うっかりしてるっつーか、詰めが甘いとこあるからなぁ」
「……悪かったな。詰めが甘くて」
突如割り込んできた低い声に、第四番隊の隊員は、一斉に肩を跳ねさせた。
いつの間にか、獣舎に繋がる扉から、デイモンが出てきている。
「あ、デ、デイモン隊長。お疲れ様ですだー」
あははーと空笑いを浮かべ、テディ達はぺこぺこと頭を下げる。
デイモンは溜め息を吐き、徐に目を反らした。
そのまま、この場を立ち去っていく。
言い訳めいた事を一切言わなかったデイモンに、テディ達は密かに顔を見合わせた。それから、遠ざかるデイモンの背中を、もう一度振り返る。
エインズワース騎士団の第四番隊隊長らしく、いつも堂々としている背中は、心なしか丸まっていた。肩も、気持ち下がっているように見える。
テディ達は、もう一度顔を合わせた。視線だけで瞬時に会話を交わすと、深く頷く。
「あっ。でも、あれだっぺなー。人の手から食いもん受け取るようになるなんて、猫っ子も成長したもんだべよー」
明らかに大きな声でしゃべり始めたテディに、他の隊員もわざとらしく続く。
「いやー、それはどうだー? 俺も何度かおやつをやろうとしてるけど、手からは直接食べて貰った事はまだないぞー?」
「あれー? そうなんだっぺかー?」
「そうそうー。俺が知ってる限りだと、テディとトロイ隊長位かー? 皿に乗った奴を差し出したら食べてくれたっていうのなら、何人かから聞いた事あるけどよー」
「えー、そうなんだべかー。おら知らなかっただー。じゃあデイモン隊長は、実は結構凄いんじゃねぇっぺかー?」
「おー、俺もそう思うぜー。なんせ、動物は食事中が一番警戒心が強まるって言うもんなー。野良とか飼い立てのペットとかだと、人目がある所じゃあ絶対に飯を食わねぇっていう話も聞いた事あるぞー」
「なら、人の手から直接食いもんを受け取るってのは、猫っ子からしたら相当な信頼の証って事にならねぇべかー?」
「だよなー。あー、いいなー。俺なんか、まだまだその領域には到達してねぇよー」
「俺もー。テディやデイモン隊長が羨ましいわー」
これ見よがしに語りながら、隊員達は頻りに同じ方向を見やる。
視線の先には、去っていくデイモンの姿があった。
その背中は、いつの間にかエインズワース騎士団の第四番隊隊長らしく堂々と伸びており、また肩も勇ましく持ち上がっていた。
完全に姿が見えなくなった所で、テディ達は溜め息を吐いた。それから、互いの健闘を称えるかのように顔を見合わせ、深く頷き合う。
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