若者と狐の三姉妹

 むかしむかしあるところに、仲の良い狐の三姉妹がおりました。三姉妹はそれぞれ、赤、白、黒の、美しい毛並みを持っていて、狩人達からはいつも狙われていました。ある日、狐の三姉妹が、巣から出て、外へ遊びに行った時のことです。三姉妹は狩人達の仕掛けた罠にはまってしまいました。赤い狐は餌を食べようとして籠に閉じ込められ、白い狐は薬草を取ろうとして落とし穴にはまり、黒い狐は美しい石を拾おうとして網に囚われてしまいました。そこへ一人の若者がやって来ました。若者は近くの村に住んでいて、隣村からの帰りでした。

 この若者は行商人です。容姿の醜さを嫌われて、居場所が無いから、わざわざ外へ出て仕事をしているのでした。そんな若者には、野にいる獣達の方が人よりも親しみ深い存在でした。故に若者は、まず赤い狐が籠に閉じ込められているのを見ると、可哀想なので逃がしてやりました。次に白い狐と出会えば、落とし穴から拾い上げ、怪我した部分に薬草を塗って上げました。それから見かけた黒い狐から網を外して、「もう捕まらないようにね」と言って、山へ送り返しました。狐の三姉妹は若者に感謝し、去って行きました。若者は満足しました。

 さて、それから暫く後、若者は困窮しました。近頃は景気が悪く、若者の行商ではまともに稼げない日が続いたのです。また、儲けるために、普段いかないような険しい道の先の村へ行ってみると、身体中に怪我もしました。まともに働けない身体になったせいで、お金は減る一方となり、とうとう蓄えも尽きてしまいました。もはや後は自ら死ぬか、いやその力が出るほど傷も癒えていない、故にそのままじわじわじっくりと死ぬのを待つしかないのだ、と若者が悲壮な覚悟を決めた頃でした。ある日、赤い衣の見知らぬ美しい女性が若者の家を訪れました。

 女性は若者の家にやって来て、宿を求めました。若者は、快く許しました。赤い衣の美女は宿の恩にと、若者のために家事をしてくれました。何処からか持ってきた山海の美味で料理を作り、怪我で身体が不自由になっていた若者に食べさせてあげました。若者は思わぬ人の優しさに心打たれ、思わず涙しました。そこへ更に、白い衣の美しい女性が宿を求めてやって来ました。彼女は赤い衣の美女とは姉妹でした。

 若者が宿を許すと、白い衣の美女は宿の恩にと、珍しいよく効く薬草で、若者の身体を治療してくれました。若者の怪我は完治し、前よりもむしろ丈夫になったほどでした。そこに加えて、黒い衣の美女が宿を求めてやって来ました。やはり、彼女は、赤い衣と白い衣の美女とは姉妹でした。若者が宿を許すと、黒い衣の美女は宿の恩にと金銀財宝を山のように持ち出しました。若者は一気に億万長者になったのです。

 不思議な幸運が立て続けに起こったので驚いた若者が、三姉妹に真意を問うと、実は自分達の正体は、彼が助けた狐の三姉妹だと明かしました。三姉妹は若者を愛しており、若者もまた三姉妹を愛していました。故に三姉妹は若者のもとに嫁ぎ、四人で幸せに暮らしたそうです。

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