習作掌編小説まとめ・昔話&童話

天海彗星

吠える彗星

 むかしむかしあるところに、小さな村が有りました。村には男の子が住んでおりました。彼は周りの子供達と上手くやれず、一緒に遊ばない子でした。その代わりに、独りで草花や虫を眺めるのが好きな子でした。ある時、村の家畜を狙って、子供の狼が一頭やって来ました。狼は村の大人達に集中攻撃されました。傷だらけになった子供の狼は逃げ出したものの、力尽きて、倒れてしまいました。その場所はちょうどあの一人ぼっちの男の子の家の前でした。男の子は子供の狼が悪さをしたとは知っていても、可哀想だと思い、放っておけませんでした。

 男の子は村の大人達や子供達に黙って、独りで子供の狼を看病しました。幸い、男の子は草花が好きだったことから、薬草のことにも詳しかったため、子供の狼の怪我は順調に治りました。やがて、子供の狼が全治すると、男の子は大人の狼の群れを探しました。男の子は子供の狼を群れに置いてくると、寂しそうな遠吠えを振り切って、涙ながらに村へと帰りました。それから幾つか年月が経ちました。男の子はすくすくと育ち、若者となりましたが、相変わらず村では変わり者として、忌み嫌われていました。

 ある日のこと、村の大人達が騒いでいました。どうやら、近所に盗賊団が出没するようになったというのです。もう、その手は隣村にまで近づいていましたが、この村を出ても、人々が暮らしていける場所は無い上に、せっかく耕作した田畑を棄てるのは、勿体無かったので、誰も村を離れようとはしませんでした。村人達は力を合わせて、盗賊団と戦うことを決意しました。一人ぼっちも鍬をよろめきながら持って、立ち向かう準備をしました。そうして、夜中になりました。満月でした。盗賊団の夜襲が始まるのです。暗闇を引き裂く鬨の声がしました。

 盗賊団は刀や槍を振り回し、弓を放ってきます。村人達も鍬や鋤で対抗します。しかし、戦い慣れている盗賊団と、もっぱら畑仕事ばかりしている村人達では、戦力差は歴然でした。盗賊団に村人達はあっと言う間に制圧されてしまいました。あとは蓄えを奪われて殺されるだけ、という正にその時でした。一人ぼっちの首筋に刀が振り降ろされそうになった瞬間、何処からともなく、力強い遠吠えが村中に聞こえてきたのです。それから、銀色の流星群が盗賊団に跳びかかっていったかと思うと、武器を吹き飛ばし、噛みつき、組み伏せていったのです。

 盗賊団は武器も獲物も棄てて、大慌てで泣き叫びながら逃げていきました。驚いて動けなくなっている村人達の周りには、銀色の流星群が勝利の遠吠えをしていました。暫くして遠吠えが止むと、流星群を率いている彗星が、一人ぼっちに近づきました。彗星は一人ぼっちの前に来ると頭を垂れました。それは大人の狼でした。白銀の毛並がまるで彗星の如く輝いていたのです。一人ぼっちには、この彗星の狼こそ、かつて自分が助けた狼だとすぐにわかりました。一人ぼっちは礼を言うと、彗星は流星群の狼達を率いて、月の見える方向へ帰っていきました。

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