にゅうよく
むかしむかしあるところに、おじいさんが住んでいました。おじいさんは小さな銭湯を長年やっていて、地元の人々からも重宝される存在でした。しかし、時代の流れによって、自宅でお風呂に入る人が増えてしまいました。おじいさんの周囲の人々も同じで、銭湯への需要が少なくなっていきました。やがて、おじいさんの銭湯は人が来なくて儲からなくなりました。他の銭湯はお金をかけて人が入る工夫をしたのですが、生憎、おじいさんにはお金もありませんし、危機を乗り越えるだけの知恵も回りませんでした。そこへ地上げ屋がやって来たのです。
地上げ屋はおじいさんの銭湯の土地欲しさに、安値で土地を買い取ろうとしました。おじいさんは貧しさから、お金が喉から手が出るほど欲しかったものの、一生懸けて勤め上げた銭湯を手放すのは、妻や我が子を売り払うようで、身を引き裂かれる思いがしました。故に、おじいさんは、勇気を振り絞って地上げ屋の誘いを断りました。すると、地上げ屋はおじいさんから何が何でも土地をむしり取ろうと決めました。
地上げ屋はおじいさんに土地を売らないと酷い目に会うぞと脅しました。おじいさんは当然、拒否しました。それから、地上げ屋からおじいさんへ嫌がらせが始まりました。地上げ屋はおじいさんの大事な銭湯に悪口を落書きしたり、石を投げ込んだり、夜中に脅しの電話をかけたりしました。おじいさんは警察に相談してみようと警察署に向かいました。電話よりも直接話した方が良いと思ったのです。
その途中、地上げ屋が待ち構えていました。地上げ屋を見たおじいさんは「もう駄目だ、殺される」と恐怖を抱き、ショックで心臓発作を起こし、倒れ、亡くなりました。日々の心労が既におじいさんを追い詰めていたのです。それから地上げ屋はおじいさんの土地を買い取り、マンションを建て、部屋を売りました。ところが、部屋を買った人々が「恐ろしい目にあった」と言ってすぐに出て行ってしまうのです。
お金を返さなければいけない地上げ屋は仕事の信用を失っていきました。仕方なく、地上げ屋は自らマンションの部屋で寝泊まりして、安全性を示そうとしました。地上げ屋は何も起きないので安心して風呂に入りました。浴槽でお湯の心地良い暖かさにうっとりしながら天井を見上げて歌っていると、次第に顔にポタポタと何かが落ちてきました。地上げ屋が顏を手で拭うと、それは血でした。
地上げ屋が驚いて辺りを見渡すと、風呂場のお湯は全て血でした。血の湯船に驚き、地上げ屋は逃げ出そうとしました。すると浴槽の奥底からおじいさんが血を撒き散らしながら現れました。地上げ屋は助けを求めて叫び声を上げましたが、マンションの他の部屋には既に誰もいません。おじいさんは地上げ屋を万力が圧迫するように抱き抱えたまま、ズルズルと浴槽の奥底まで沈んでいきます。地上げ屋は壁にしがみつくも、壁の血でつるつる滑り落ち、湯船に頭が沈むと、溺れ苦しんだ後で、最期は何処へも知れない血の湯船の下に消えていきました。
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