おなかすいたよ
むかしむかしあるところに、若いサラリーマンがおりました。若いサラリーマンはある会社の新入社員で、念願の就職ともあって、毎日張り切ってお勤めしました。ところが会社の上司は若いサラリーマンの働きぶりに満足しません。若いサラリーマンは毎日、早朝から夜遅くまで働きましたが、どんなに成果を上げても、会社の上司は常に厳しい評価を下し、休憩時間を一秒でも取ろうものならば、「飯を喰っている暇があるなら仕事しろ!」と叱りました。若いサラリーマンは仕事を失いたくない一心で食を断ってでも真面目に働き詰めました
やがて、若いサラリーマンは日が進むに連れてどんどん痩せ細っていき、とうとう栄養不足で仕事中に倒れてしまいました。若いサラリーマンが病院から帰ってきた頃には、既に職場には彼の席がありませんでした。若いサラリーマンは仕事を辞めたくなくて、上司にも再び勤められるようにお願いをしましたが、「倒れてしまうなんて根性の無いお前が悪い」の一点張りで、受け入れて貰えませんでした。無職になった若いサラリーマンは仕方なく再就職活動を始めました。ところが、今度は家族から冷たい眼差しで見られるようになってしまいました。
家族は、ハローワークへ行く前に食事を取ろうとした若い無職を睨み、「仕事を失ったのに呑気に飯を食うな。働かざる者喰うべからず!」と叱りました。若い無職は家族の言葉を真剣に受け止め、自分は甘えていたと己を責め、何も食べずに出ました。それから若い無職は仕事が見つかるまではと食事を断ち、毎日朝から晩まで求職活動に明け暮れました。しかし、前職の失態で、新しい仕事にはありつけませんでした。
若い無職は何も食べない日が毎日続いたため、ガリガリの骨だけになり、静かに倒れ、「おなかすいたよ」と泣きながら呟いて、遂に餓死しました。流石に死んでしまうとなると家族も埋葬しない訳にはいかず、葬式が行われ、いよいよ火葬が終わるという時が来ました。すると、死んでいたはずの若い無職の骨がカタカタと動きだし、焼き場の扉を破って、出て来たではありませんか。集まった親類縁者一同はびっくりです。脚もすくんで動けなくなった彼らを余所に、若い無職の骸骨はか細い声で「おなかすいたよ」と何度も呟きながら歩いてきます。
骸骨には親類縁者一同がチキンステーキに見えました。たまらずチキンステーキ達をペロリと平らげました。悲鳴を上げる親類縁者一同は頭から食べられ、がらんどうのお腹から血肉になってドボドボと落ちきます。骸骨は幾ら食べてもお腹がいっぱいにならず、「おなかすいたよ」と呟き、餌を求めて火葬場を出ました。骸骨は気が付くと昔の勤め先の前にいて、美味しそうな匂いを嗅ぎました。会社の中に入ると御馳走がずらりと並んでいます。骸骨は逃げ惑う北京ダック、ポークソテー、分厚いビフテキを次々と口に放り込み、よく噛んで味わいながら食べました。御馳走を全て食べ終わるとお腹に血肉が詰まって満腹となり、「ごちそうさまでした」と手を合わせ、眠りに着きましたとさ。
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