習作掌編小説まとめ・怖い話

天海彗星

古井戸の復讐鬼

 むかしむかしあるところに、四人の子供がいました。四人はよく一緒でした。一人目は人より美しい子、二人目は人より力持ちの子、三人目は人より賢い子で、四人目は何をとっても人より駄目な子でした。四人目は他の三人からいつも無理に遊び相手にされ、たいがい馬鹿にされたり、殴られたり、騙されたりしていました。ある時のこと、四人は使われていない古井戸を見つけました。すると、一人目から三人目はひそひそと話し合い、四人目をこの古井戸に落としたら面白いのではないかと笑ったのです。四人目は三人の話の輪に入れず、戸惑いました。

 さて、一人目から三人目は作戦を練ると、四人目に罠を仕掛けました。まず一人目が四人目を美貌で誘惑し、目を瞑らせ、その間にぐるりと身体を縄で縛りました。それから二人目が四人目を持ち上げると、えいっ、と古井戸に投げ落としました。三人目は四人目の叫び声が聞こえなくなるまで、古井戸の中に石をこれでもか、これでもかとひたすら落とし続けました。やがて四人目が声を上げなくなると、三人は笑って帰りました。あの中から四人目がいつ帰って来るのか、その時また古井戸に落としたら面白いだろうな、と三人は楽しそうに話しました。

 しかし、四人目は帰って来ませんでした。何日も何日も経ちましたが、それでも帰って来ません。四人目の子供の母親は、嘆き、くたびれ、数か月後には自ら命を絶ってしまいました。こうなっている頃には、三人はそんなことも忘れて、いつものように仲良く遊び、段々大人になり、都会へ出ました。彼らも初めの内は四人目が帰って来ないことに対して、「帰って来ないアイツが悪い」と言っていたのですが、自分の生活が変わるに連れて、それさえも忘れてしまいました。やがて、三人の子供達は働いて大金を積み、いよいよ結婚も間近となりました。

 三人は結婚前に、久し振りに故郷に帰りました。会話を弾ませて故郷を楽しく歩いていると、あの古井戸を見つけました。三人は昔、ここで四人目を落としたことを思い出し、笑い話にした後、これからの人生の楽しみについて語り合いました。すると、帰り際になって、古井戸から、洞窟に木霊する蝙蝠の鳴き声のような笑いが響いてきました。三人は少し恐ろしくなって、都会へと帰りました。それから暫くして、一人目の美しい子は、結婚前の準備として、美容室で顔を綺麗に洗ってもらおうとしました。するとあの笑い声が室内に木霊したのです。

 一人目は不穏な気配を感じましたが、時既に遅く、頭を強い力で掴まれ、顔面に鉄条網を巻き付かれました。一人目は顔面が深々と何条にも渡って抉られ、鏡に写る己に絶望して死にました。次に二人目の力持ちの子は、結婚の前祝いに酒場で飲んだ後、便所に行くと、後ろから笑い声がした瞬間、高く持ち上げられて、便器の中に叩き落とされ、死にました。最後に三人目の賢い子は、結婚式会場へ向かう途中、笑い声と共に降った沢山の石を浴び、死にました。その後、ある女性の墓の前で、子供の骸を抱いた、お爺さんの遺体が見つかったそうです。

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