53.5 浮舟を想う涙

✈✈✈Let' go to SenmojiGenji

 女一の宮の病気は横川の僧都の祈祷のおかげもあって回復したの。横川の僧都は女一の宮のお母さんの明石中宮と話をしているときにふと宇治で拾った姫の話をするの。

 明石中宮さまも側に控えていた小宰相の君も、その姫はもしかして薫が宇治に匿っていた浮舟のことなんじゃないかって思うの。といってもまだ確証はないから薫には伝えられなかったんだけれどね。


 小野では大尼君の孫の紀伊守きいのかみがやってきて妹尼と話しているんだけれど、話題が薫のことなの。今は薫の家来みたいで浮舟は動揺するの。

「宇治に通っている姫君がいらしたんだけど亡くなられて(大君のこと)、今度はまたその妹(浮舟)をそこに囲っていらしたんだけど、去年の春に亡くなられたんだ。昨日もね、宇治川のほとりで薫大将さまは泣いていらっしゃるんだ。それから家の柱にこんな歌を書いたんだ」


~ 見し人は 影もとまらぬ 水の上に 落ち添ふ涙 とどせきあへず ~

(姿も残さずにあのひとが身を投げたこの川に落ちる僕の涙も止まらないんだ)


「普段態度にお出しにならないけれど、その悲しんでいらっしゃる様子は女性ならどんなに惹かれるだろうなぁって思ったんだ」


 あまり身分の高くない人にも薫は素晴らしいって思われているんだわって浮舟は思うの。妹尼は話を続けるの。


「でもお父様の光源氏の美貌には敵わないんじゃないの? それにしても源氏の一族は評判よね。まずは左大臣さま(夕霧)でしょう」


「そうですね。とてもご立派ですね。それから(源氏の孫の)兵部卿宮さまですね(匂宮)。女子だったらあの方にお仕えしたいと思うでしょうね」


 紀伊守がそう言ったの。浮舟はそれらの話を小説の中の話のように聞いていたの。

 それから薫が浮舟の一周忌を行うことになったって紀伊守が言うの。そこでその法事に必要な装束を仕立てることになって、浮舟は自分の法事の支度を手伝うというなんとも奇妙な経験をするのね。それでも薫が自分を忘れずにいてくれたことを知って嬉しく思うんだけど、もう出家してしまった尼姿を絶対に見せないようにしないとって心に誓うの。




To be continued ✈✈✈


🖌Genji Waka Collection

~ 見し人は 影もとまらぬ 水の上に 落ち添ふ涙 とどせきあへず ~

薫が亡き浮舟を偲んで詠んだ歌




 ◇「薫くんが悲しんでいる様子が浮舟ちゃんにも伝わったね」

 「こんなに悲しい歌を詠んでくれている薫くんのことを浮舟ちゃんはどう思ったのかな」


 浮舟の法事の準備も進めているようですね。

「浮舟ちゃん、自分の法事の準備のお手伝いをするんだね」

 浮舟自身も奇妙な体験だと思っていますね。

 



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53.6 驚愕の事実




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