53.3 想いは和歌にこめて

✈✈✈Let' go to SenmojiGenji

~ 身を投げし 涙の川の 早き瀬に しがらみかけて たれかとどめし ~

(涙ながらにあの川に身を投げたのにいったい誰が助けてしまったの)


~ われかくて 浮き世の中に めぐるとも たれかは知らん 月の都に ~

(こうして生きていることをあの月の照らす都の人は誰も知らないわ)


 浮舟は自分の心情をぽつりぽつりと歌に詠んでいるみたいね。お母さんはどんなに悲しんでいるかしら、乳母や右近もどうしているかしら、と思い出しているみたいね。


 小野の妹尼の亡くなった娘さんには中将というお婿さんがいたの。彼の弟は横川の僧都のお弟子さんだったから中将もよく横川に来ていたの。小野は横川に行く途中にあるからよく小野の妹尼のところに立ち寄っていたのね。

 亡くなった娘さんのこと(中将にとっては奥さん)をふたりで懐かしんでいるんだけれど、尼さんばかりの山荘に似つかわしくない浮舟の姿をちらっと見ちゃうの。

 中将は横川に着くと横川の僧都に小野にいる姫(浮舟)のことを聞いてみるんだけれど、詳しいことはわからなくて、また帰りに小野に立ち寄るの。

 中将は浮舟に恋の歌を贈るんだけど、もう恋愛なんてしたくない浮舟は返歌なんてできないの。だから妹尼が代理の返事をしたの。

 その後も中将は何度も小野にでかけて浮舟を口説こうとするんだけれど、浮舟は頑として応えようとしないの。それどころかもっと出家したいって思うようになっちゃうの。


 9月になって妹尼はまた初瀬詣で(長谷寺参り)を計画するの。浮舟も誘うんだけど、彼女は断るのね。


~ はかなくて 世にふる川の 憂き瀬には たづねも行かじ 二本ふたもとの杉 ~

(儚くひっそりと過ごす私には初瀬にある二本の杉を訪ねるつもりはありません)

(私はひっそりと隠れてすごしているので、匂宮さまにも薫さまにもお会いするつもりはありません)


「あら、やっぱりお逢いになりたい方がいらっしゃるのね」

 妹尼がそう言うと浮舟ははっとして顔を赤くしてしまうの。結局妹尼たちで初瀬詣でに出かけて浮舟はお留守番をすることになったの。



To be continued ✈✈✈


🖌Genji Waka Collection

~ 身を投げし 涙の川の 早き瀬に しがらみかけて たれかとどめし ~

~ われかくて 浮き世の中に めぐるとも たれかは知らん 月の都に ~

浮舟が現在の心境を読んだ歌


~ はかなくて 世にふる川の 憂き瀬には たづねも行かじ 二本ふたもとの杉 ~

浮舟が無意識にふたりのことを詠んだ歌





◇浮舟の「二本のスギ」の歌ですが、古今集の歌で初瀬川にある二本の杉を踏まえていて「二本の杉のある初瀬には行きません」と詠んだのですが、逆に逢いたい人がいることが妹尼に知られてしまいました。


「薫くんのことも匂宮のことも浮舟ちゃんにとっては辛いことだったけれど忘れられないもんね。無意識に詠んじゃったんだね」





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53.4  浮舟の出家

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