41.3 彼女のいない夏

✈✈✈Let' go to SenmojiGenji

 夏になって花散里が衣替えの衣装を届けてくれるの。


~ 夏ごろも たちかへてける 今日ばかり 古き思ひも すすみやはする ~

(紫の上さまの好きだった春が終わって衣替えをするけれど、やっぱり紫の上さまのことを思い出しちゃうわね)


~ 羽衣の 薄きに変はる 今日よりは 空蝉の世ぞ いとど悲しき ~

(羽衣みたいに薄い着物になる今日からは俺の想いもまた儚く哀しいよ)


 賀茂祭の日に女房達がそわそわしているので、「お祭り見物に行ってきてもいいよ」と源氏は言ってあげるの。


 春が終わり梅雨の時期に夕霧が様子を見にやってくるの。まだ立ち直れていないお父さんの姿に、たった一度だけ紫の上の姿を見た自分だって忘れられないのに、夫婦だったんだからその落ち込みようは仕方がないなって夕霧は思うの。

「おふたりのあいだに子どもが生まれなかったのが残念だよね」

 夕霧がそう言うの。

「俺自身に子どもが少なかったからね。夕霧おまえは子どもに恵まれていていいね」


~ 亡き人を 偲ぶる宵の 村雨に 濡れてや来つる 山ほととぎす ~

(山ほととぎすよ、あの人を想って今夜の雨に濡れてやってきたのか)


~ 郭公ほととぎす 君につてなん 古さとの 花橘は 今盛りぞと ~

(ほととぎすよ、故郷の橘の花が今満開ですとあの方に伝言してほしいんだ)


 源氏と夕霧はそんな歌を詠みながら紫の上のことを偲ぶのね。夕霧はその夜はそのまま泊っていくことにするの。紫の上が生きていたころは源氏は決して自分たちの部屋に夕霧を近づけなかったの。今こうしてその部屋にいることを許されているっていうことはもう紫の上がいらっしゃらないからだと思うと夕霧はまた悲しくなっちゃったみたいね。


 七夕のイベントも今年はしないでしんみりと過ごす源氏。

 秋になって紫の上の命日を迎えるんだけど、やっぱり悲しみは尽きないの。


~ 君恋ふる 涙ははても なきものを 今日をば何の はてといふらん ~

(紫の上さまを恋い慕う涙は尽きませんのに、どうしてお命日を区切りにしないといけないのでしょうか)


 紫の上が可愛がっていた女房がそう歌を詠むの。


〜 人恋ふる わが身も末に なりゆけど 残り多かる 涙なりけり 〜

(彼女を恋慕う命は残り少ないけれど、涙はまだ残り多いんだ)


 源氏も女房の歌の横にそう書き添えるの。

 一周忌が過ぎても相変わらず物思いに耽る日が過ぎて行くの。月日が経っても悲しみは癒えるどころかかえって増していくようなんですって。





To be continued ✈✈✈


🖌Genji Waka Collection

~ 夏ごろも たちかへてける 今日ばかり 古き思ひも すすみやはする ~

 花散里が紫の上のことを思いながら源氏に贈った歌


~ 郭公ほととぎす 君につてなん 古さとの 花橘は 今盛りぞと ~

 夕霧が紫の上のことを思いながら詠んだ歌


〜 人恋ふる わが身も末に なりゆけど 残り多かる 涙なりけり 〜

 源氏が紫の上のことを想い悲しみ詠んだ歌




◇夏になり、秋が来ても源氏の悲しみは癒えません。


「夕霧くんも花散里さんも心配してくれているけれど、それで立ち直れるものでもないよね」

「っていうかさ、紫ちゃんにつらい想いさせた懺悔の期間だよね」


 でも源氏想いの紫の上は仮にこの姿を天国からでも見ることがあったならこう言うのではないでしょうか?

『そんなに悲しまないで。あなたの気持ちはわかっているわ』


「うぅぅぅぅん。紫ちゃんなら言いそうかも。なんか紫ちゃんの方が源氏より年下だけれど精神的にはお姉さんぽいよね」

 そうかもしれませんね。





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41.4 出家の準備

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