41.2 彼女のいない春

✈✈✈Let' go to SenmojiGenji

 明石中宮は御所に戻ったの。そのときに源氏の気がまぎれるかと二条院に匂宮におうのみやを残していくの。紫の上の遺言を健気に守って庭の紅梅と桜を大切に眺める匂宮。桜の花びらが散らないように周りを几帳で囲んじゃおうなんて可愛らしい思いつきに思わず源氏も心和ませるみたい。


「こうしてキミと仲良くしている時間も少なくなってきたな。もうすぐお別れかな」

 出家をするつもりの源氏はそんな風に匂宮に話すの。

「おばあちゃまがいってたこととおんなじだよ。そんなのやだよ、おじいちゃま」

 匂宮は泣き顔を袖で必死に隠そうとしながらそう言うのよ。


 源氏は六条院にいる女三宮のところへ匂宮を連れて一緒に行くの。匂宮は薫と仲良く遊ぶの。源氏は女三宮に時候のあいさつで満開の山吹の話をするんだけど、出家した身には関係ないわと冷たく突き放されちゃうの。


「谷には春も(光なき 谷には春も よそなれば 咲きてとく散る ものひもなし:古今和歌集)」

(光の差さない谷は季節も関係なくて、花が咲いただの散っただのと感動しませんわ)

 

 紫の上だったらきっと思いやりのある返答をしてくれるのに、小さい頃だってこうだった、あのときだってそうだったって紫の上の言ってくれた優しい言葉や綺麗な容姿を思い出してまた源氏は涙を流すの。


 そのまま冬の御殿の明石の御方のところを源氏は訪ねるの。久しぶりに会う明石の御方はやっぱり格別に素晴らしくて、受け答えもカンペキなの。出家したいけれど、未練もあるし、踏ん切りがつかないんだと愚痴をこぼす源氏に、御方は躊躇するのも分別が深いからそのまま孫たちが成人するまで(出家しないで)後見してほしいって話すの。


「藤壺の宮が亡くなった春は、今年の桜は墨色に咲いてくれ(深草の野辺の桜し心あらば今年ばかりは墨染に咲け:古今和歌集)って思ったんだ。俺が小さい頃から憧れていた人だったから特別に悲しかったんだ」

 源氏は昔語りを始めるの。

「紫の上もただ連れ添った奥さんに死なれたっていうだけじゃなくて、彼女を少女のころから育ててきた特別な想いがあるんだ。あんな時やこんな時の彼女のことを思い出すと堪えられないんだよ」 

 その夜は遅くまでふたりで語り合っていたのに、泊まりはしないで源氏は帰ろうとするの。明石の御方は少し寂しく感じるの。

「俺もえらく変わったもんだな」

 源氏はそんな風につぶやいたんですって。


~ 泣く泣くも 帰りにしかな 仮の世は いづくもつひの とこよならぬに ~

(泣きながら帰ったんだ。この世はどこもあの世彼女と繋がっていないから)


 泊ってくれなかったことは寂しかった明石の御方だったけれど、それほど源氏は悲しんでいるんだわって同情したみたい。


~ かりがゐし 苗代水の 絶えしより うつりし花の 影をだに見ず ~

(花のように美しい紫の上さまがいらっしゃらなくなってから、あなたはわたしのところに来てくれなくなったわね)


 こうして、どうしても寂しいときにだけ源氏は奥さんたちのところを訪ねて話をしたりはしたんだけれど、もう前みたいに一晩中デートすることはなくなったんですって。 






To be continued ✈✈✈


🖌Genji Waka Collection

~ 泣く泣くも 帰りにしかな 仮の世は いづくもつひの とこよならぬに ~

 源氏が明石の御方のところに泊まらずに帰るときに詠んだ歌


~ かりがゐし 苗代水の 絶えしより うつりし花の 影をだに見ず ~

 紫の上のことを忘れられない源氏のことを明石の御方が詠んだ歌




◇「匂宮ちゃんがかわいいね」

 明石の中宮が産んだ子供たちの中でとても可愛がったのが、紫の上の手元で育った女一の宮と三の宮(匂宮)でした。匂宮は帝と明石の中宮の三男です。


「明石さんのところに行っても泊まらないで帰るなんて、紫ちゃんが天国で見ていたら驚いちゃうね」

 

 何をしていても紫の上のことに結び付けて悲しんでいる源氏の姿。紫の上に見せてあげたい気もしますね。





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41.3 彼女のいない夏

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