42.2 宿命の子

✈✈✈Let' go to SenmojiGenji

 薫は元服後トントン拍子で出世しているの。冷泉院(源氏と藤壺の宮の子)は薫のことをとっても可愛がっているの。自宅に薫専用の部屋を造り薫専用の女房たちまで雇っているの。でも薫のお母さんの女三宮が薫に頼りきりだったから、薫は冷泉院の御所と母の三条の宮を行ったり来たりの生活で忙しそうなのよね。他に帝と明石中宮の子である東宮さまや兄弟の宮さま達も親友のようによく薫を呼び出すので、身体をいくつかに分けられたらいいのになんて思っているみたいね。

 

 ぱっと見順風満帆に見える薫なんだけれど、小さい頃に自分の出生のウワサをチラッと聞いたことがあってずっと気にしているの。けれども誰にも聞くこともできなくて悩んでいるの。


~ おぼつかな たれに問はまし 如何いかにして 始めも果ても 知らぬ我が身ぞ ~

(誰に聞いたらいいんだろう。僕はどうやって生まれてきてどう生きて行ったらいいんだろう)


 どうしてお母さんはあんなに若くして出家しなきゃいけなかったのか、自分が生まれてくることに何か不幸なことがあったんじゃないか、本当に自分は源氏の子なんだろうか、源氏にも自分の存在が不快にさせていたんじゃないか、もし源氏の子じゃないのなら冷泉院さまに目をかけてもらって出世する資格なんてないんじゃないか……。

 そんなことを考えていたから出仕(勤め)始めて周りの華やかさに触れても薫自身は浮かれることもなく冷静な性格になっていったの。それどころかいっそ出家したいな、なんて考えるようになっちゃうの。

 でも薫の思惑とは裏腹に帝(女三宮の異母兄)も中宮(源氏の娘)も薫のことを自分の子どもと同じように可愛がっているし、それは夕霧も同じなのね。


 かつての光源氏は帝の皇子の中でも最も愛されたけれど、それを嫉妬する反対派があったり、お母さん(桐壺の更衣)を早くに亡くして実家の支えがなかったりしたけれど、薫は最初からすべてを手に入れていたのよね。そして見た目も優美で気品高く思慮深く誰とも似ていなく優秀な男子に成長していたの。


 薫の身体からはいい香りがしたの。そのなんともいえない香りは人を惹きつけて、離れたところでも薫がそこにいるってわかるくらいだったの。庭の木も薫の袖が触れれば春の雨の日にも枝の雫が香りを放つし、秋の野の藤袴も薫が通ればなつかしい香りがしたんですって。





To be continued ✈✈✈


🖌Genji Waka Collection

~ おぼつかな たれに問はまし 如何いかにして 始めも果ても 知らぬ我が身ぞ ~

自分の生い立ちにはよくない事情があるんじゃないかと悩む薫が詠んだ歌



◇「薫くん、落ち着いたクールイケメンってカンジ?」

 帝や冷泉院、明石の中宮さまなど高貴な方々に我が子のように可愛がられているのに浮わついたところもないようですね。


「いい匂いがするってどんな香りなんだろ」

 この時代は自分好みの香を衣服に焚き染めるのですが、薫の場合は香を使わなくてもいい香りがしたようです。


「なんかミステリアスだね」

 ミステリアスと言えば薫は自分の出生について悩んでいます。小さい頃女房たちが

「薫さまって本当に院さま(源氏)のお子様かしら?」とウワサしているのを聞いてしまったようです。


「うーん、まぁそうなんだけどねぇ。自分が誰の子かわからないってそりゃ悩んじゃうよね」




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42.3 匂う兵部卿 薫る中将

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