9.3 嫉妬の鬼

✈✈✈Let' go to SenmojiGenji


 また別の日に源氏は紫の君と同じ牛車に乗ってお祭り見物に出かけようとするの。


~ はかりなき 千尋の底の 海松房みるぶさの ひ行く末は われのみぞ見ん ~

(海のように深い愛を誓うよ。キミの将来は俺だけが見届けるからね)

 紫の君の髪を梳いてあげながら源氏はそんな歌を彼女に贈るの。


~ 千尋とも いかでか知らん 定めなく 満ち干る潮の のどけからぬに ~

(海だなんて言われてもそれじゃ愛が満ちたり干いたりするみたいであてにならないわ)

 紫の君が返した歌が源氏には可愛らしく思えたみたいね。


 昨日はお祭りの主役だった源氏が今日はプライベートで来ているから、一緒にいる女性デートの相手はいったい誰なの? って噂になったみたいよ。紫の君もずいぶんと成長して綺麗で素敵な女性になっていたの。



 お祭りの騒動後、六条御息所の心境はフクザツなの。源氏をフッて娘と一緒に伊勢に行ってしまうのは心残りだし、だからといって京に残って「源氏に捨てられた元アイジン」なんて思われるのもプライドが許さないし、あのお祭りの日に源氏に気づいてもらえなかったシカトされたのも我慢ならなかったのね。源氏も「伊勢になんか行くな」って強く引き留めるわけではなかったの。

「俺を見捨てちゃうわけ? 今までみたいな結婚はしないけど付き合うカンジでいいじゃん」

 そんな状況の時に起きてしまったお祭りでの葵の上との騒動だったのね。 



 妊娠中の葵の上はとても具合が悪かったの。その頃信じられていたお祓いなどをしてもらうんだけど、ちっともよくならない。ものすごい怨念の霊のせいだと言われ、それは御息所なんじゃないかって噂になってしまい、また御息所は傷ついてしまうの。

 それでも御息所はときどきふっと魂が身体を離れて、葵の上の髪を引っ張ったり彼女を苦しめている感覚がどうやらあったみたいなのよね。

 未練を残して死んでしまった者が霊になることはよく聞くことだけれど、生きているのに霊となって他人を苦しめているなんてそれだけ源氏への想いが強すぎるってことだから源氏への愛を断ってしまわないとって御息所は思うの。けれども本人の意思では生霊になることをとめることはできないのよね。

 


To be continued ✈✈✈


🖌Genji Waka Collection

~ はかりなき 千尋の底の 海松房みるぶさの ひ行く末は われのみぞ見ん ~

源氏宰相大将が紫の君に贈った歌


~ 千尋とも いかでか知らん 定めなく 満ち干る潮の のどけからぬに ~

紫の君が源氏宰相大将に贈った歌



◇このお祭りは葵祭といって今でも5月15日に行われます。

 物語では源氏が使者として行列に参加し、葵の上と六条御息所の家来同士が乱闘騒ぎを起こしました。千年も前から現在まで続いている歴史ある祭祀。このお祭りを紫式部も見物していたのかなと思うと感慨深いですね。


「今年は中止だったね。仕方ないけれど見てみたかったな」

 令和3年は京の都で華やかな行列が見られますように。



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9.4 息子の誕生と葵の上の死

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