第23話 警告する
奴隷落ち寸前の級友たちを回収して戻り道の四日目、ユヅル一行の連なる馬車は
御者席のユヅルの目に飛び込む一面の枯れ野に青空から黒い点が迫り。
ユヅルは爆裂魔法の短詠唱の紫電を天に放つ。
きれいに旋回した鳥竜は舞い降りて、荒れた道をふさいだ。
「ユヅルさま、大変でございます!」
鳥竜の背で叫ぶアニュレの下へ、ユヅルは駆け寄った。
早口に耳を傾ける。
今朝、強欲領主の兵士どもが村を襲った。
館へ逃げ込んだ同胞を救うため、殿下自ら人質となることを申し出て。
蛮人どもは殿下を拉致し、城で待つと。
ユヅルは、かたわらで控えるステラに目配せする。
「君の力を借りたい」
「なんなりと、魔王さま」
「ユヅルさま、すべてを捧げるわたくしがおりますのに、怪しげな暗殺者に頼るとはどういうことですの」
「ステラの元飼い主は強欲領主で、だから城内部には詳しいでしょ。あと、魔王はやめて」
「はい、魔王さま。その殿下とやらの救出任務は、手に余りそうなのだけれど」
「……じゃ、アニュレと協力してよ。二人とも、それでいいかな?」
短くうなずくアニュレとステラに、ユヅルは陽動作戦を告げる。
アニュレとステラを乗せた鳥竜は、青空へ。
街に入ったユヅル一行の馬車は、大通りを行く。
商会の敷地で級友たちと分かれ、ユヅルは城へと続く石畳の道を上り始めた。
そびえる
遅いんだよ、間抜け——練り上げた魔弾を放った。
爆轟の一撃で尖塔の間を埋める石壁が蒸発し、むき出しの主館。
衛兵どもが逃走の石造りの道を上りきって、跳ね橋が上がりつつ。
短く唱えて、跳ね橋を巻き上げる荒縄を撃ち抜いた。
跳ね橋が下りて、靴裏から大地の震え。
早鐘が鳴り響くなか、詠唱しつつ道を戻る。
作戦開始の特大の一発、爆裂魔法の初級の上を城に向けて放った。
傾いだ尖塔から、影がこぼれ落ちて。
呪文を口ずさみながら、ユヅルは跳ね橋を渡り半壊の城門をくぐる。
粉塵の
ユヅルは、青白い右手を突き出す。
霞む指先からほとばしる無明の
虚空のうねりが柱廊をゆがめて——静寂。
爆裂魔法を玄関広間に撃ち込み、
短詠唱を放ち、暗い廊下を走る
一歩、また一歩、玉座の間へ。
扉を撃ち抜くと、陽光があふれた。
守るように並ぶ剣を
「派手にやってくれたな、高くつくぞ」
「これでも手加減してるんだけど」
強欲領主は鼻先で
「貴様は今から俺さまの下僕だ」
「なんで?」
「貴様が飼っている魔族の娘の命は、俺さまの手のひらの中だ。ひざまずけ、命乞いをしろ、そして爆裂魔法で世界征服、俺さまの思うがまま、くははー」
けたたましい
「ああん、聞こえなかったのか?」
壊れた扉の奥から、音もなく暗殺者は絨毯に靴を沈めて。
「聞こえてるのだけれど」
強欲領主の唇を
「遅いぞ、ステラ。そいつをやれ。だが、殺すな」
ステラは、ユヅルのそばで歩みをとめた。
「あなたとの契約は、こちらから破棄させてもらうのだけれど」
「なっ!? わかった、金だな、倍、いや三倍を出そう、そいつをやれ、殺すな、いや殺せ!」
「わたしの心はお金で買えないのだけれど」
「くそっ、おまえら、やれーっ!」
ステラは一歩を踏み出す。
帯剣に手を伸ばすことなく、黒衣の男どもは一歩を後退り。
「おい、やれって言ってるのが聞こえないのか」
「化け物が二人。無理です、死にたくありません」
強欲領主は舌打ちをこぼした。
「それ以上近づくな、これを見ろ」
赤い首輪に、二人は目をとめる。
「これは十年かけて開発した魔道具、俺さまの呪文なしに外れない。もちろん、締めつけることができる、遠く離れていようが呪文でなーっ!」
壊れた扉の薄闇から、主従が玉座の間に足を踏み入れる。
放られた赤い首輪は、絨毯に沈み。
「くっくっく、わらわに小細工は効かぬぞ」
転瞬、絶句の強欲領主にステラは迫った。
「天使に会わせてあげる」
「ま、まて、はやまるな」
「ステラ、そいつはどうでもいい。帰るよ」
ユヅルは、爆裂魔法で天井を撃ち抜いた。
ウィオラとアニュレは短く祈る。
呼び寄せた二頭の鳥竜が、青空を円く切り取る大穴から広間に降りた。
ユヅルは鳥竜に
歯噛みする強欲領主を
「警告する、次は城ごと消し去るから。二度と干渉しないでね」
「くっくっく。間抜けの蛮人ども、さらばじゃ」
鳥竜のひろげた黒い翼が、広間に小さな嵐を巻き起こし。
四人を乗せた二頭の鳥竜は、青空へ駆けのぼった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます