第31話 エンディング03【二ノ宮END】

「雪が降ってきたな、文月ふみづき

 二ノ宮にのみや銀城ぎんじょう先輩が宙に手を差し出すと、手に乗った粉雪はみるみる溶けていった。

「ホワイトクリスマスになりそうですね」

「寒くはないか? 自分の上着で良ければ羽織っておけ」

 銀城先輩は私――文月ふみづきしおりに自分のコートを着せてくれる。

「ありがとうございます。……あったかい」

「体温は高いほうだからな」

 そういう問題なのだろうか、と思ったが、なんとなく流すことにした。

 私はクリスマスを銀城先輩と過ごすことにした――あの修学旅行の最終日、銀城先輩をクリスマスデートに誘ったのだ。

「この一ヶ月が待ち遠しかった」

「あら嬉しい」

 銀城先輩と手を繋いで、向かった先は夏休みにも行ったステーキハウス。デートとしてはやや不向きな場所だが、私達二人にデートの作法など知ったことではない。

「肉! 美味ウマ!」

「あまり慌てて食うなよ、文月」

 銀城先輩は珍しく破顔して、朗らかに笑っている。少しビックリして見つめると、先輩は恥ずかしそうに頭を掻いた。

「……あー、すまん。文月があまりにその……」

「ちょっとはしたなかったですかね」

「いや! その……夢中で食べてて可愛かった……など……」

 二人でしばらくうつむいて無言になる。どちらも顔が赤かった。

 ステーキを食べ終えて、ストローでメロンソーダをすすっていると、不意に銀城先輩が話を切り出した。

「文月は……この冬休みは暇か? 春休みでもいい」

「うーん、冬休みはちょっと……春休みは多分やることなくて暇ですよ」

 春休みは基本宿題は出ない(そもそも私の場合、宿題が出ても初日で全部終わらせる)ので、そちらのほうが時間はたっぷりあった。

「春休み、自分と日本一周の旅に出ないか」

「に、日本一周、ですか……!?」

 突然の提案に、思考が追いつかない。

「以前話したと思うが、全国を回って武者修行をしようと思ってな。要は道場破りだ。しかし自分は方向音痴なので一人では不安だからナビゲートをしてほしい」

「道場破りって、さらっとすごいこと言いましたね今……」

「三年生になったら受験の準備が始まるだろう? 日本を旅するなら今しかないと思ってな」

「で、バイトして資金が貯まったんですね」

「そのとおり」

 銀城先輩はニッと笑って、「で、どうする? 文月の答えを聞きたい」とテーブルから身を乗り出す。

「面白そうなので、もちろんついていきますよ。初めての場所でナビゲートできるかは不安ですが……」

「なに、その時は一緒に迷えばいい。地球上にさえいれば、必ずおみくじ町には帰って来れる」

 地球上ときましたか……。

 いつの間にか日本を飛び出している覚悟をしなければならないな、と私は気を引き締めた。

 ふと窓の外を見ると、イルミネーションに雪が舞っていて、幻想的な光景が広がっていた。

「綺麗ですね……」

「ああ……。メリークリスマス、文月」

「メリークリスマス、先輩。好きです」

 ついでのような告白になってしまったが、銀城先輩は驚く様子も見せず、

「道場破りの旅が夫婦めおと旅行になってしまうな?」

 と、かすかに笑ったのであった。


【二ノ宮ルート END】

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