第31話 エンディング04【中島END】
「……えーっと、本当に僕で良かったんでしょうか……?」
「ええ、猫春くんがいいんです」
猫春の不安を取り除くように、私はニッコリと笑って彼の手を取る。
修学旅行の最後、私は猫春とクリスマスデートの約束をした。
やってきた場所はテーマパーク。普通はカップルか友達連れで来る場所だが、あいにく恋人も友達もいなかった私には縁のなかった場所だ。正直初めて来る。
「まずはどこを回りましょうか?」
「そうですね……」
どうやら猫春も初めてテーマパークに来たらしく、二人で地図とにらめっこする。
すると、ちょいちょい、と、きぐるみの手が二人の視界、地図の上に入り込んだ。
「わ!? 何!?」
ビックリしていると、きぐるみが「僕についてきて」と言いたげに手招きする。
「……行ってみます?」
猫春は少し不安そうだったが、
「行ってみましょう! きぐるみにパークを案内してもらえるなんて楽しそう!」
私は猫春の手を引いて、きぐるみのあとをついていった。
着いた場所は、きぐるみが複数体いて、一緒に写真を撮れるスペースらしい。
……ちなみにきぐるみひとつひとつに個体名があるらしいが、私はそのへん興味ないのでこの文章では「きぐるみ」で通す。
私はおばあちゃんから借りてきたデジタルカメラで写真を撮ることにした。
「猫春くん、もうちょいきぐるみに寄ってください」
「お、思ったより大きい……」
自分の身長を超えるきぐるみにビビりながらも、猫春はきぐるみにじわじわ歩み寄る。
すると、きぐるみ(おそらく女の子? リボンしてるし)が猫春をギュッと抱きしめた。きぐるみの口が猫春につくが、大きさ的にキスというより頭から食べられているように見える。
「わーっ!」
「あはは、猫春くんいいですね! そのまま動かないでくださいね~」
私は夢中でパシャパシャと写真を撮る。ふわふわのきぐるみに包まれた猫春、めちゃくちゃ可愛い。語彙力が溶ける威力。
「あの~、よかったら写真撮りましょうか? カップルなら一緒に写ったほうがいいでしょ」
通りすがりの男性に声をかけられ、カップル……! と舞い上がって言われるままカメラを渡した。
それがいけなかった。
カメラを渡された男はそのまま写真を撮らずに背を向けて逃走した。――カメラ泥棒だ!
「猫春くん、カバン頼みます」
私は手に持っていた荷物を地面に投げ捨てて、全速力で男を追う。
おばあちゃんのカメラ! しかも中には猫春の可愛い写真! カメラ泥棒、許すまじ!
「待てやテメェェェェェオラァァァァァ!」
「ヒィッ!? なんだあの女めちゃくちゃはえぇ!」
カメラ泥棒は諦めたらしく、カメラを地面に捨ててそのまま逃げ去った。
私はカメラに駆け寄って安否を確認する。
地面に落ちた衝撃でおばあちゃんのカメラが少し傷ついたのはショックだったが、中のデータは無事だった。
「栞さん! 大丈夫ですか!?」
私と自分の分の荷物を両手に抱えながら、猫春が駆け寄ってくる。
「大丈夫です! 猫春くんの写真、守り通しました!」
私がそう言うと、猫春は首を横に振る。
「そうじゃない、違うんです。栞さんが怪我してないか、心配で……」
「あはは、そんなの全然平気ですよ。私が強いの、知ってるでしょ?」
私は元気に力こぶを作るポーズをする。
すると、猫春はシュンとするのである。
「……僕は、どうしたら栞さんのお役に立てるんでしょう……」
「猫春くん?」
「僕には財力も腕力も体力もない。僕が、栞さんに出来ること、何かないんでしょうか……?」
「も~、そんなの気にしなくていいのに」
私はガハハと笑って猫春くんの肩をバシバシ叩く。
「そうだ、さっき地図見てて、ちょっと気になったとこあったから、行ってみましょう!」
猫春から自分の荷物を受け取った私は、猫春の手を引いて歩き出す。
「し、栞さん、どこへ?」
「いいからいいから」
猫春を連れてたどり着いた場所は、森の図書館のような不思議な空間。
(おそらく作りものだろうが)木が無数に生えていて、本棚になっている。その中に魔導書が収められている……という設定だ。
魔導書の文字を解読すると呪文が使えるようになり、パーク内ならどこでも唱えれば魔法が発動するという。
……正直どういう仕組みなのかさっぱり分からん。
「猫春くん、これ読めますか?」
私は魔導書を一冊抜き出して、猫春に見せる。
「これは……鏡文字になっていますね。これを解読すると……」
猫春が文字を読むと、近くのマンホールから水が吹き出て、蓋が空高くに上がった。
「すごい! もう魔法が使えるようになったじゃないですか!」
「魔法……なのかな……? でも、なんだか達成感みたいなのはありますね」
「猫春くんには『知力』があるんですよ」
私がそう言うと、猫春くんはぽかんとしていた。
「知力だって立派な『力』ですよ? それはきっと、私だけじゃなくて他の人だって守れちゃいます」
「栞さん……」
猫春は今にも泣きそうなほど目をうるませていた。
「……僕、夢があるんです。本屋さんとか、ブックカフェとか、なにか本に関係する仕事がしたくて」
「司書なんかも向いてるんじゃないですか?」
そう言うと、猫春は首を横に振る。
「……あの、その夢の隣に栞さんがいてくれたら、いいな、って……っわぷ」
「猫春くん……好きです」
私は猫春のあまりの可愛さについつい抱きしめてしまうのであった。
二人の夢が叶うのは、遠いようで近い将来の話。
【中島ルート END】
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