第49話 再びマニセリルへ

 翌日早朝。

 私とシュカとトーガの三人は、朝日を浴びながらまだ暖まらないマニセリルの街を歩いていた。


 とりあえず親分と合流しようということでユド邸に向かっている訳だが、いかんせん街が広い。

 ちらほらと人もいるため当然フードを被っており、狭められた視界のおかげで歩く速度は上がらなかった。


 しかし何かあっては周りに迷惑がかかる。

 余計な面倒ごとは避けたいものであり、結果としてフード着用は必須だった。



「一日経たずに会いに行くって、親分どんな顔するかな」

「どうせやることもなくて今頃はまだ寝てるんだろうし、こっそり行って驚かせちゃおうか?」


 私の言葉にトーガは寝起きドッキリの提案をしてくる。

 シュカは隣で会話を聞きながら、「それいいですね」と笑いを漏らした。


「それにしてもびっくりだよ、まさかあの引き籠りちゃんがハルと話すなんて。巷じゃあんまり知られてないみたいだけど、あの子確か結構な人見知りだよね」

「らしいね。けどまあ夫人のこともあるし、協力してくれるならこっちとしては願ったり叶ったりだよ」


 幸先のいい現状に頷くと、シュカが私を覗き込む。


「タグルさんとは何を話したの?」

「んーと、お家の話はよくしてくれたよ。相当お母さんのこと好きみたいで、お喋りじゃない方なんだけど普通に楽しそうに話してくれてね。お誕生日も一緒だし、いい友達になれそう」

「よかったね。ちなみにお誕生日って……」

「え? ああ、昨日だよ」


 そう言うと、案の定横の二人は左右で「えっ」と声を上げた。


「そうなの!?」

「嘘ついてどうすんのよ……こっちの世界の暦とはちょっと違うかもしれないけど、元の世界では九月十五日が誕生日だったの。多分大体一緒でしょ」

「引き籠りちゃんの誕生日は秘匿情報だったからなー、もうちょっとちゃんと調べとくべきだったかぁ」

「え、トーガってそういうの事前に調べるタイプなの?」

「タイプっていうか……まあ趣味みたいなもんだよ」


 困ったように笑うトーガに、私は怪訝な顔を軽く傾けた。

 最近、不明瞭なことが多い気がする。

 疼く好奇心を理性で窘め、再び話題を変更しにかかった。


「話を戻すけど、タグルちゃんの情報提供のおかげでいい感じの仮説を立てられてね。それを証明するための資料をギーナさんにお借りしようって訳」


 感心したように頷くと、トーガはふと思いついて悪戯っ子のような顔をした。


「ルノイは婆さんとこにいるんだっけ? また下僕やってんのかねぇ」

「……ギーナさんのこと? あんな美人を婆さんなんて言ったらバチ当たるよ?」


 そう言って眉をひそめる私。

 トーガはキョトンとした表情を浮かべたが、すぐに何かに納得したらしく含み笑いで答えた。


「いやあの人少なくとも50は超えてるから」

「………………は!? 嘘でしょ!?」

「マニセリルの路地裏魔女ギーナって言ったら結構有名だよ。魔女は長生きだってのを踏まえると、もしかしたらもっと歳いってるかもだけどね」


 私の素っ頓狂な声を軽く流して冷静に解説を入れるトーガ。

 シュカは苦笑いで会話を見守っている。


 嵐のように脳裏に渦巻いた質問の群れを二人にぶつけようとする。

 しかしそれはすぐに「あ、着いた」というシュカの言葉に断ち切られ、一行は親分の旧友の屋敷の門をくぐった。

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