第17話 ギーナという魔女③
『ハル・……・ ソエジマ ウォルダの民
魔力保有量 165000n
魔力量 0n
属性 無
能力 【中枢の魔女】』
私は頭をひねった。
属性とは、本来であれば髪色の系統に従って得られる魔法の属性を意味する。
髪の色が赤ければ火の、青ければ水のといったように、主に5つの属性から成る体系に基づくものであり、大気中に存在する魔力を体内に取り込む際に、本人の属性に合った魔力が多く吸収されるようになっている。
五つの属性は"
また能力とは、属性魔法の他に一つ、本人が使える魔法を示すものだ。
これは名前のついた魔法ではあるが本人もその使い方も効果も分からないという代物で、ある日突然何かの拍子に自由に使えるようになったり、使い方が脳裏に浮かんだりする。
効果も様々で、属性魔法に関係のある魔法とは限らず、必殺技というほど有能であるとも限らない。
「……見ていただいてもいいですか」
困惑を隠せないまま、ギーナに板を渡す。
ある程度はゲレに教わっていたので分からなくもないが、数字が普通の人と比べて多いのか少ないのかも不明だし、能力に至ってはどちらかというと厨二病のハンドルネームみたいなもののように見える。
ギーナは黙って光る文字を見つめていたが、しばらくして口を開いた。
「……人間の魔力保有量は、どんなに高くても30000と言われているわ。でもあなたのは、その5倍以上……」
驚嘆を含んだ台詞を吐いて、ギーナは私の髪をチラリと見た。
「魔力量の示す指数は、魔力自体をどれだけ保てるかの数字なの。つまりあなたは、165000ネラの魔力保有量のうち、全てが生命力に変換されているということになる。寿命は大体100ってところかしら……」
この国の平均寿命は、およそ50歳と言われている。
有色人種より無色人種の方が長命である確率が高いというのは知っていたが、ギーナの話から推測するに生命力の多さが寿命に直接関与してくるのだろう。
「あの……この能力については何か……」
「あたしからすると、魔力の保てないあなたが【魔女】というのは不思議ね。あとこの【中枢の】っていうのは……」
……暗号かよ。
心の中でツッコミを入れつつ二人で頭を使うが、それらしい答えは出ない。
「あなたの診断についてだけど、きちんと調べてみたいから、一度預からせてもらっていいかしら」とギーナは明るく言った。
「あ、ハルちゃんと猫ちゃんの関係も確認しておかなくちゃよね。この子と意思疎通はできる?」
「私とは会話できますが、他の人とはできないみたいです」
「ちょっと何か話しててもらっていいかしら」
顔の前で両の手の指を組みながら、ギーナは言った。
私は前足で耳を撫で終えたミヤと目を合わせ、何を話そうかと逡巡してから口を開いた。
「えっと……ミヤ、退屈じゃない?」
「全然大丈夫だよ。ギーナの話も興味深いし」
「ギーナさんの話の内容も分かるの?」
「僕の中にはハルの生命力が入っているからね、話してることを理解するのは簡単。猫だから、言葉を話すのは難しいけど」
自慢げに尻尾を揺らすミヤは、横目でギーナを窺った。
「え、じゃあなんで私はミヤと話せてるの?」
「そりゃあまあ、意思伝達能力ってやつさ。僕らは今、思念的な部分で会話してるんだ」
難しい言葉を知っているなと感嘆のため息を漏らすと、「ありがとう、もう大丈夫よ」とギーナが私に微笑んだ。
私はもう少し辛抱するようにミヤに謝り、ギーナとの会話を再開する。
「……あなたたちの波動はよく似ているけれど、この子は使い魔でも、操り人形でもなさそうね」
「助けた時に、私の生命力が入ったらしいんです」
ミヤと出会った時の話を聞かせると、ギーナは興味深そうに目を見開いた。
「……古い文献で読んだことがあるわ。確か古代魔術の一つに、生命力を生命力のまま対象に注ぐことで、回復を恐ろしいまでに早めることができるっていうのがあったはず」
ギーナはそう言うと、右手で指を鳴らした。
その瞬間壁一面にいくつも並ぶ本棚のうち真ん中の棚が床に沈み、奥に空間が現れた。
暗くてよく見えないが、どうやらそこは書庫になっているらしい。
しばらくして、一冊の古びた本が風を切って飛んできた。
本はギーナの前に優しく落ち、触れてもいないのに勝手に高速でページをめくり出す。
何も言えずに様子を窺っていると、本は終わりの方のページを開いて止まった。
それは、まだ魔力保有量の全てが生命力として人の中に存在している頃の魔導書だった。
進化の過程で得た、他より多い生命力。
それそのものを利用して自然に干渉する生命魔法はその後、現在の形態である、有用性の高い魔力による魔法に差し替えられていったのだという。
「古代魔術を使える人間は、今の世界にはほとんどいないと言われているわ。自然と調和できる素質が必要なんだけど、文明の発達のおかげで人類はその力を失ってきているの。ハルちゃん、自分がかなり貴重な存在だってこと、絶対に忘れちゃダメよ」
真剣な視線を向けるギーナに、私は頷く。
ギーナはそれを見て柔らかく笑むと、今度はミヤに話しかけた。
「もしよかったら、あなたにも毛を一本もらいたいのだけど」
ミヤは右の腕で逆の前足を抑えて引き抜いた。
右足を退かすと、そこには数本の黒い毛があった。
ギーナは「ありがとう」と一言言ってから、その毛をどこかから取り出した小さなガラスの容器の中に入れた。
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