第16話 ギーナという魔女②
改めて見ると、ギーナの髪はかなり黒に近い。
ゲレの教えによると、黒に近いほど魔力保有量は大きく、それ故に暗い色の髪の人々は王宮や貴族の元で魔導官として勤めている者が大半なのだそうだ。
魔導官というのはいわゆるエリートで、先天的能力が優れた上で人格、思考力などにおいて申し分ないとされた人にしかなれない、世代を超えた人気職業なのだという。
素質的には申し分ないであろう赤黒い髪に目をやりながら、私は彼女の処遇に疑問符を浮かべた。
「山小屋での生活はどう? あの子たちと一緒に暮らしてるんでしょ?」
ギーナの言葉から、私たちは世間話を始めた。
「はい、皆さんのおかげで、毎日がとても楽しいです。見ず知らずの私に、本当によくしてくださって……」
「紅一点だから、皆あなたのことをかなり可愛がってるんでしょうねぇ。ハルちゃんはこの辺りの人たちとは顔の系統が違うようだけど、どこの出身なの?」
紅茶を啜ってにこにこと笑うギーナに聞かれ、少し戸惑う。
誤魔化すべきか否か。
一瞬考えて、私はルノイの師匠を信じることに決め、フードをとった。
「実は……私は元々、この世界の人間ではないんです」
自分の元いた世界の話をして、紅茶に口をつける。
それから私は膝に乗せていたミヤを、ギーナに断ってから机の上に置いた。
「この子は、瀕死の状態にあったのを私が助けました。でも私は本来、魔法のない世界にいた人間ですし、魔法も使えません。ですからどうしてこの子が助かったのか、未だに分からないんです」
ギーナが大人しく毛繕いをするミヤに目を向けたその時、ちょうど苔色の扉が勢いよく開いて、ルノイが両手に何か抱えて部屋に入ってきた。
「あら、遅かったじゃない」
「……お前が
荷物をギーナの前に大雑把に置くと、ルノイはくるりと背を向けて再び扉の向こうに消えていく。
「なんだかんだ言って片付けてくれるのよねぇ」とギーナは嬉しそうに笑った。
「……さ、話を戻しましょ。これが何か、分かる?」
ルノイが持ってきたものを私の方に寄せ、ギーナは頬杖をついた。
それは少し大きめな、四角い木の板のようなものだった。
それぞれの角に丸く加工された石が埋め込まれており、内側のふた回り小さな銀色の枠にぴったり合うように、古い紙らしきものが貼り付けられている。
私は顔を上げた。
「いえ、分かりません……これは一体……?」
「これは"シルレイ"って言ってね。まあ簡単にいうと、魔力解析装置よ。基本的には国営の医館や仕事斡旋所に置かれてる。これを使えば、あなたの魔力保有量や属性が分かるわ。とりあえず、やってみましょ」
ギーナはそう言うと、私に髪を一本抜くように指示した。
「それをここに置いて」
真ん中を指す指に従う。
髪は触れた先からするすると紙のような部分の中に入っていった。
手を離してからすぐに髪は光に変わり、紙の中に文字を描いていく。
私は動けずに、じっとその光の文字を見つめていた。
文字が最後まで映し出された頃、向かい側でギーナが言った。
「文字は読めるかしら」
私は我に返って頷くと、慎重に文字の解読を始めた。
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