第6話 大尉の日常②

6歳になると剣術の時間を早朝にしてもらい。魔術の訓練という名目でセロアと外出することが多くなった。


ただ、ずっと訓練をしていては疲れてしまう。魔術の訓練半分、遊び半分と言ったところだろう。


リットラント領は豊かな自然に恵まれており、屋敷から早馬を走らせるとすぐに山や小川があった。


元々、山岳地帯の多くあるミットラントで育ったセロアは、山や川での遊びに詳しかった。


セロアは僕を遊ばせながらも、食べられる山菜や役立つ薬草の知識などを教えてくれた。それらは、屋敷にいては学ぶことの出来ない知識だった。


さらに、この野外授業では精霊魔法を習うことが出来た。精霊は自然の多いいところを好むため、屋敷にはほとんどいない。


ただ、山や川など自然のあるところには、目には見えないが、驚くほど多くの精霊の気配を感じることが出来る。


以前、セロアから精霊魔法は内なる魔力を呼び水に、精霊を行使する魔法との説明を受けた。ただ、使ってみると少し印象が違った。


まず、精霊魔法のメリットは、大きく2つある。


一つ目は精霊を行使することによって、自分だけでは出来ない複雑な魔法を使用したり、複数の魔法を同時に起動したり出来ることである。


二つ目は、精霊から一時的に魔力を借りて、自分の力だけでは使用出来ない強力な魔法を使用出来ることである。


ただ、精霊魔法には必ず対価が必要であり、精霊を行使すれば自らの魔力から対価、つまり給料を支払わなければならないし、魔力を借りれば、利子を付けて返さなければならない。


精霊魔法では魔力とはいわば通貨なのだ。だから内なる魔力が大きければ大きいほど、精霊を多く雇えるし、それを担保に大きな魔力を貸してもらえるわけである。


それでは精霊とはなんだろう?この世界で精霊と呼ばれるのは、意思はあるが肉体を持たない魔力的存在である。


魂を対価に巨大な魔力を貸す悪魔と呼ばれる存在から人の善の感情を好み、無償で力を貸す天使と呼ばれる存在まで全てが精霊の一種だと考えられている。


それでは、神聖魔法とはどんな魔法なのだろうか?セロアに聞いたが、使えないので詳しいことは分からないらしい。


ただ、伝説によると、この世界には神に等しい存在、全ての魔力を司る3柱の最上位精霊がいるらしく。その最上位精霊と契約をすれば使えるらしい。


ただ、ここ500年は使用出来た者はいないらしいので…眉唾である。


そんなことを考えていると、あっという間に夕方になっていたーー


「ラース!お魚焼けましたよー!」

今日は、セロアと一緒に野宿の訓練だ。捕まえた魚の捌き方から、野営のやり方などを教わっている。


子供っぽいかもしれないが、非常に楽しい。思えば前世では、子供の時分に自然の中で遊んだ記憶がない。


思い返せば陸軍幼年学校に入るまでは、古流柔術の道場をやっていた祖父に夜遅くまでみっちりしごかれて遊ばせてもらったことなどなかった。


もちろん、陸軍幼年学校でも陸軍士官学校で遊ぶ暇なんかなかったのは同じだったし、士官学校在学中に戦争が始まったので…思い出すと悲惨だな前世…


ただ、前世ではそれが当たり前だった。別に辛いとは思わなかった。


むしろ、今こんなに新鮮な気持ちで楽しむことが出来るのは、そのおかげだろう。


「どうしました?ラース」


「いえ、何もないですよ。先生」

そう思うとこの何気ない時間も大切にしようと思えてくる。


「魚もう1匹食べますか?」


「はい、もらいます。」

こんな時間がいつまでも続けばいいと思いながら空を見る。前世とは違うが、前世と同様に美しい星空がそこにはあった。

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