第5話 大尉の日常①
5歳になる頃には、縁覚魔法の中級魔術師※となった。試験で取得出来る魔術師としての資格は中級魔術師が最高であり、最年少での中級魔術師合格であった。
相変わらず、気を緩めると暴走しそうになるので、小さい力をコントロールする事に終始しているが、魔法が得意なミーア族と比べても異常なほど優秀であると、セロアにお墨付きをいただいている。
先生セロアに言われただけで、同年代はおろか若者すら周りにいないから確かめようもないんだけどね。少し親バカだからなセロアは…
…横を見る。そこには無防備に寝ているセロアの姿があった。
整ったキレイな顔立ちをしている。深みのある青い髪も美しい。あどけない寝顔はいつまでも見ていたい気分になる。
4歳頃から始まった剣術の訓練の後は、部屋でセロアと昼寝することが多くなった。
セロアが成長のためには身体を休めることも大切だと、両親に言ったらしい。
もっともらしいが、本当はただ単に教えることがなくなったからだ…。昼寝したかっただけかもしれない。
ただ、リットラント家は厳格な家風で、本来なら子供でも昼寝など許されない。
それが許されたのはセロアが優秀であることと、結果を出しているからに他ならない。
セロアはときどき抜けているし、のんびりとした性格だが、魔術師としては一流と言える域にある。
見たことはないが、高等魔法をいくつか使用できるらしい。高等魔法の難易度は非常に高く、一つでも使用できる者は魔術協会からマスターと呼ばれる称号が送られる。
これは、上級魔術師になれる者が限られるため、中級魔術師の内から能力のある者に指導者としての資格を与えるための制度らしい。
名誉級の上級魔術師はオースティン全体でも数名しかいないらしいので、中級魔術師のマスターの称号は実質的には魔術資格の最上位であり、セロアがどれほど優秀なのかがわかる。
次に結果だが、教育係の結果とはなんだろうか?それは僕自身だろう。
なんせ、魔術にしろ、剣術にしろ、学術にしろ、すでに大人顔負けのレベルである。(元々、大人だしな。)
この世界に来てから覚えた礼儀作法も完璧にこなすことが出来る。
両親からみたら、子供も教育係も非常に優秀に見えていることだろう。
それはさておき、困ったことがある。現状で学べることが少ないのだ。屋敷にある本は全て読み尽くしてしまったし、セロアは優秀だが魔術以外の知識は専門家には程遠い。現在、学ぶ余地があるのは魔術と剣術くらいだが…。
この世界での剣術は剣だけでなく徒手格闘も含む総合武術だ。剣道と柔道を合わせて当身を強化したような感じだ。
リットラントは騎士の家系であり、兵の練度も高いはずだが、技術的には前世で学んだ剣道や柔道の理論には及ばない。
ただ、技術的な部分が劣るからと言って、この世界の武人が弱いわけではない。
むしろ逆だ、この世界の平均的な身体能力は、前の世界と比べて非常に高く技術を覚えなくても、剣を振れば相手を殺せるし、岩を断つこともできる。
つまり、工夫しなくても出来るなら工夫する必要はないのである。
なので、剣術に関しては前世で学んだ技の確認とこの世界の戦法や戦術を中心に学んでいる。
魔術に関してはセロアに「あーもう…ラースに教えれることなんてありません。」とスネながら言われてしまった。高等魔法を教えて欲しいのだが、どうやら教えたくないようだ。
まぁ、とりあえず現状でやれることは、身体の鍛錬をして、しっかり休んで身体を成長させるくらいだろう。
それに、セロアの寝顔を見ながらゆっくりするのは悪い気分ではない。むしろ、子供の時分にしか出来ない貴重な時間であろう。
そう考えていると、セロアの目がゆっくりと開く。薄いグレーの瞳と目が合う。
僕が起きていることを確認すると、腕を伸ばして僕をしっかり抱きしめた。
「お昼寝の時間はしっかり休まなきゃだめですよ。」
こうして抱き枕にされるのも、まぁ悪くない。そう考えて瞳を閉じた。
※ 魔術師(縁覚)試験案内
Ⅰ 初級魔術師
(1) 到達基準
一系統以上の魔法を使用でき、魔法に関する基本的な技能と知識を有すること。
(2) 試験内容
ア 筆記(魔法に関する事項30題)
イ 実技(例、丸太から風魔法で薪を作成す るなど選択した各系統の基本的な技能 を問うもの。)
Ⅱ 中級魔術師
(1) 到達基準
三系統以上の魔法を使用でき、かつ二系統以上の魔法について応用出来る技能と知識を有すること。
(2) 試験内容
ア 筆記(論述題 2題)
イ 実技①(例、火を発生させ、継続的にコ ントロール出来るなど基本的な技能を場 面に応じて適切に扱えるか問うもの。)
ウ 実技②(例、2系統以上を組み合わせた 魔法を使用出来るか問うもの。)
※上級魔術師については、特別な功労があった魔術師に与えられる名誉級であるため試験は設けられていない。
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