第2話 異世界転生を命じられました
ーーー目を覚ますと、暖かい布に包まれていることに気づく…怪我のせいか視野が狭く、身体が思う様に動かない。
視線の先には、白く清潔な天井が見えた。(どこだここは?)
「ほぎゃー!ほぎゃー!」声を出そうとする。喉に血が詰まっているのか。まるで赤ん坊の様な声しか出ない。
「$#%^*=;!'$€;_」
日本語でも英語でもない女性の声が聞こえてくる。聞いたことない言語に声…なのに何故か安堵している自分がいる。
女性の方を見る。少女の様だ。見たこともない髪の色をしていた。その色は明るい夜空の様な深い青だったーーー
ーーー2週間後、自分の置かれている状況を整理する。意識が戻った瞬間は捕虜になったとも思ったが、少女に抱き上げられて鏡に写る自分の姿を見たとき、完全に理解した。鏡にうつる自分が赤ん坊だと気づいたからだ。
どうやら、自分は生まれ変わったらしい。名前はラースと言う。とは言っても前世の記憶はあるし、日本語で物事を考えている。
ここが、どこの国なのかはわからない。見た目は欧米人に近いが…話している言葉は英語でも獨逸語でもない…言語については多少聞き取れるようになってきたが、聞いたこともない言語だ。
1ヶ月後、どうやら自分を最初に抱き上げてくれた青い髪の少女は、自分のための世話係で名前をセロアと言うらしい。
母親はやや暗い銀髪で優しそうな雰囲気で20代前半くらい、父親は赤毛を持つ逞しい戦士の様な雰囲気で20代半ばくらいか?父親は実際に戦士で貴族らしい。
ただ、父親は忙しいらしく、この1ヶ月はほとんど会うことはなかった。母親についても授乳の時に軽くあやす程度で、その他はときどき様子を見に来るくらいである。
つまり、ほとんどの世話はセロアがしてくれている。前世は庶民生まれの自分は最初は驚いたが、どうやらこの国の貴族ではこれが普通らしい。
生後3ヶ月、セロアが驚いた顔をしている。自分が喋ったことが原因である。
しまったと思い…考える。生後3ヶ月で話し始める…どう考えても異常だ。だが、何かデメリットがあるだろうか?
成長の早い我が子を親は喜ぶだろう。意思の疎通も出来る様になる。悪いことはほとんどないはずだ。
何より、自分が喋れる様になった事を、嬉しそうな顔で両親に伝えに行ったセロアが嘘つきになってしまう。
わずか3ヶ月であるが、この甲斐甲斐しく自分の世話をしてくれる彼女(セロア)を嘘つきにするのは、少し偲びない。
今後は、細心の注意を払って出来ることを小出しにすれば問題ないだろう。出来る限り子供らしく振舞おうーーー
ーーー意思の疎通が出来る様になると、得られる情報は格段に増えた。
母親の名前はキャルロア
父親はゼロフィス
家名はリットラント、騎士の家系で辺境伯という爵位も持っているオースティン王国の貴族だ。
リットラント家の領地もリットラントと呼ばれる。オースティンの貴族は領地の名を家名とするらしい。
たまに姿を見せる父ゼロフィスだが、母キャルロアに気を遣っていることが伺える。どうやらキャルロアの方が身分の高い生まれらしい。
3歳になり、自分で行動出来る様になると父親の書斎に行くことが多くなった。
本を読むためだ…とは言っても文字ではわかりにくい、読めてもそれが何かわからないのだ。
例えば、前世で知っている物であっても日本語とこちらの言語では名前が異なる。
なので、日本語でそれが何なのか一つ一つ覚えていく必要があるのだ。ハッキリ言って、めんどくさい。
それでも、本を読んでいると重要な情報を得ることができる。その一つが、この世界が元の世界とは別の世界であることだ。現段階でわかっている大きな相違点は2つある。
人間以外にも文明を持つ種族がいること。(本当にいるのか疑わしいモノもあるが…)
次に、文明の発達程度の違いである。文明程度は西欧の中世ぐらいだろう。物によっては驚くほど先進的である。調理や暖炉には薪を使うのに、夜間の光源には立派な電灯のようなモノが使われていた。しかも、セロアが「光よ」と言うと勝手に点くのだ。どの様な仕組みなのだろうか?
軍事関係の本を開こうとした時、書斎のドアが開かれ、セロアが入って来た。
「ラース!またこんなところにいるんですか?旦那様に叱られますよ」
そう言うとセロアは僕を抱き上げる。暖かく柔らかな感触が背に当たる。
「な、何するんですか!先生!」
女性の感触にたじろぎながら、抗議の声をあげる。
「何するんですかじゃないですよ!すぐ何処かに行ってしまうんですから、まったく」
と言いながら僕を僕の部屋まで連れていく。
セロアのことをメイドか何かだと思っていたが、どうやら違うらしい。
そもそも種族が違う。セロアはミーア族と呼ばれる僕の属する
ミーア族は15歳になると、条件を満たす他族の子供の世話をして成人の儀とする。他族の子供を10歳まで育ててそれを終えると成人と認められるのだ。
はじめて聞いた時は、疑問に思った。まず、セロアが15歳には見えない。贔屓目に見ても10歳くらいにしか見えないのだ。
そして、15歳から10年間の期間が長すぎる様に感じたし、ミーア族になんのメリットがあのかわからなかった。
期間の問題は、ミーア族の種族的特徴を聞いて納得した。ミーア族はかなりの長命種で300年近く生きるそうである。
人間の容姿ではいえば、10代前半で成長が止まり、その後死ぬまで容姿がほとんど変化しない。それなら10年程なら大したことはないのかもしれない。
「どうしました?」
セロアが自分の顔を覗き込んでいる。息がかかるほど近い。そして、いい匂いがする。
「ち…近いですよ。先生!」
真っ赤になりながら、たじろいでしまった。
(情けない。こんな子供に)
自分が幼くなったせいか?10歳くらいにしか見えないセロアに照れるなんて…
「ラースはかわいいですね」
ニコニコしながら頭を撫でられる。
「からかわないで下さい。ところで先生…もっと絵とか図が入った本を読みたいのですが、何かいい本がありますか?」
「絵とか図ですか?うーん絵付きの本は高価で数も少ないですからね。軍事関係の本なら書斎に一冊あったような気がしますが…」
「それを読みたいです。」
「わかりました。持って来ますね。」
セロアが苦笑いしながら書斎に向かった。どうやら、セロアは軍事関連の本を見せたくないようだ。
ただ、僕が求めれば読ませてくれる。セロアが持ってきてくれた本を受け取ると、その本を噛り付く様に読んだ。
この世界は騎兵での戦いが主であり、武器は剣や槍である。遠距離攻撃としては弓矢、クロスボウなどがあることが図と絵からわかる。
ただ、遠距離攻撃の中でわからないことがあった…火炎術と書かれている。持った棒から火が出ていた。
敵軍が使用していた火炎放射器を思い出したが、そんな物があるはずがない。ガスや火薬があるのだろうか?
「先生!これなんですか?」
「んー火炎術ですね。魔術師が使う攻撃魔法です。」
(何言ってるんだ。魔法?いや、待てよ。もしかすると別の意味があるのかもしれない。)
「えーと、魔法ってどうやるんですか?」
非科学的なモノを信用しない質なので取りあえず確認する。
「そうですね。一口に魔法と言っても、力の根源がどこにあるかで3つに大きく分けられますーーー。」
セロアの話を整理すると
1 自分の内なる魔力を使う。(
2 精霊を使役し、魔力を借りる。(精霊魔法)
3 精霊以上の上位者とされる者から魔力を借りる。(神聖魔法)
の3つがあるらしい。ただ、縁覚魔法以外の魔法も自分の内なる魔力を呼び水として使うので、その威力は内なる魔力の総量に比例する。
「だいたいわかりました…先生は魔法を使用出来るのですか?」
出来るのなら見せてほしい。ただ望みは薄いかな?どこに行けば見れるのだろうか?
「はい、できますよ。ミーア族は魔法が得意な種族ですから」
「種族によって得意、不得意があるんですか?」
あっさり使用出来る人間を見つけてしまったことに驚きながらも疑問を口にする。
「そうです。
「他の種族は?」
「他の種族は詳しくはわかりませんが、
「なぜ、一部しか使えないのですか?」
「そうですね。正確には勇者アースの血脈によるものとされています。」
「勇者アース?ですか?」
「勇者アースの話を知りませんか?人族をアース族と言うのは勇者アースが生まれた種族だからですよ。何度も話したはずですが…」
たしかに聞いたが、御伽話だと思って聞き流していた… たしか、千年前に支配者であった魔王を倒して、全ての種族に自由をもたらしたみたいな内容だったと思う。
「いや、知っていますが…それじゃ、勇者の直系ではない、僕は神聖魔法が使えないのですか?」
「え?リットラント家はアースの血脈を薄いながらも受け継ぐ家系です。ですから、ラースは使える様になる可能性があります。」
知らなかったことに驚いた様子だ
こちらも驚いた顔をしているだろう。
「そもそも、ミーア族の私がラースの側にいるのは、勇者伝説によるモノですよ。」
「どういうことですか?」
「伝説によると勇者は人族の生まれでありながら、10歳までミーア族に育てられ、魔法と知恵を授けられたとされています。そのため、ミーア族はアースの血脈を受け継ぐ家系に子供が生まれると、10歳までの教育係として派遣されるわけです。」
「ヘェ〜じゃあ貴族はみんなミーア族に教えてもらうのですか?」
「いえ、強制ではありませんし、今では勇者伝説もお伽話です。わざわざミーア族を雇うのは、リットラント家のように伝統を重んじる家柄かつお金に余裕のある家だけです。」
リットラント家の領地は、オースティン王国の王都から離れているが、王国内でも有数の農業地帯であり税収も多く、温暖な地域である。
ただ、問題もある。豊かな農業地帯のため国境を接する大国である帝政マーシアに幾度も侵攻されているのである。
現在は停戦して平和な期間が長いが、一部の領地をマーシアに占領されており、火種は燻り続けている。現状を考えれば、いつ戦争になってもおかしくはないとゼロフィスが言っていた。
魔法というモノがどういうものかわからないが、高価な軍事の本に書かれているくらいなのでこの世界では有益な軍事技術なのだろう。
自分自身がもし使えなくても、知識として持っていればいざという時に何かの役に立つかもしれない。
それに、見てみたい。
なので、ダメ元で聞いてみることにした。
「先生。僕に魔法を教えてくれませんか?」
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