第8話 覚醒

 目を開けるとオレは暗い部屋の中のベッドの上に横たわっていた。

 横たわるオレの足元の方から、ほんのりと明かりが入り込んでいる。

 無地の天井が見える。

 空気はやや乾燥していた。喉に唾液がへばりつく感覚がある。

 仄かに消毒液のにおいが鼻をつく。


 ああ、ここは病院かな、と思った。


 頭がぼんやりとする。

 顔がなんとなく痺れて重怠おもだるい。

 左手には点滴の針が入っている。


 オレは……オレの身体からだに戻ってきたんだと思った。


 足元で黒い影が揺れるのが見えた。

 誰だろうと思って目を凝らすと、そこには、臥雲龍翔が立っていた。


「……臥雲さんも無事だったんだね」


 酸素マスクをつけられたオレは、声にならない声で臥雲に話しかけた。臥雲には届かないような微かな声だったが、はっきりと彼は答えた。


「ああ。お前が早く肉体に戻ったおかげだ……。転生先を失ったウーログは消滅したからな」


「はは……臥雲さんに頼んだ報酬は……高いだろうね」


臥雲はゆっくり頷いた。


「……う、ん。……紡希?」


 救急車の甲高いサイレンが聞こえたからか、オレの後ろで、母ちゃんがもぞもぞ動いて、オレに呼びかける声が聞こえた。

 母ちゃんに気を取られたオレは一瞬臥雲から視線を外した。


「紡希……意識取り戻したんだ!!……医師せんせい医師せんせい呼ばなきゃ!!!看護師さーん!!!看護師さーん!!!」


 意識を取り戻したオレの横で母ちゃんがナースコールを押している。

 ふと気が付くと、臥雲龍翔は忽然こつぜんと姿を消していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る