第17話 松竹梅の挑戦
「三猫士とやら、ここでどんなポジションにおるのだ?」
三匹は得意げにハモった。
「聖域守護に決まってるわ!」
「猫の楽園である当院を外敵から守るのが仕事!」
「一人前の猫叉になるための修行に明け暮れる毎日よ!」
「と言うと聞こえはいいですが、いつまでたってもここから卒業できない脛かじりの半妖トリオです」
繁が忌々しそうに睨みつける。
「変化の術を二つ三つ覚えたぐらいで一人前の猫叉をめざして修行に明け暮れるとは聞いて呆れる。いいかおまえたち、真剣にコン活する気がないなら、もっと妖術の修行に身を入れろ!」
聞きなれない言葉に清丸の頭髪から犬の耳がピンと立った。
「コン活とは何だ?」
二十年間古物店の店主に化けていたといっても、社会性を欠いた偏屈な男である。どうしても情報に偏りが出てしまうのだ。一応、青田静馬の記憶からもコン活なるワードを検索してみたが、いわゆる婚活ともまた違うようである。
「就職活動を縮めて就活と呼ぶがごとくコンパニオン・アニマルになるための活動にございます」
「無学を許せ。コンパニオン・アニマルとは?」
「単なる人間のペットの域を超えて、家族の一員と見なされる動物のことです。僕は黒猫亭へ流れついた捨て猫・野良猫たちに身を守るに適当な術を教えてから、再び飼い猫として落ち着き先が見つかるように送り出す活動もしています」
「猫の貰い手を探しをセルフでやっているようなものか」
「おっしゃる通りですが、この三匹ときたら人間は嫌だの怖いだの、犬じゃあるまいし劣等生物に尻尾を振る生き方などしたくないだの理屈をこねて、もう何年も黒猫亭に居座っているという始末。本当は清丸さまには恥ずかしくて紹介したくなかったのですよ」
「気持ちはわからんでもないな。おい、脛かじりども」
清丸が声をかけたが三匹の猫は揃ってそっぽを向いた。わかりやすい反意の示し方に犬神も思わず苦笑した。
「なんて態度だ! 我々の新しい主に!」
「この犬神を主人と認めたわけではありませんわっ」
ちょっと艶っぽい雉猫が棘のある口調で言う。
「おまえの許可など必要ない! カラス様のご遺言だ!」
「カラス様のことは、わたしたちも尊敬しておりましたわ。でも、お亡くなりあそばす寸前は、退魔師に受けた傷のせいで弱気になられていたとしか思えませんの。はっきり申し上げますと少々耄碌されていたのでは……」
「ななななんということをーっ!」
「まあ待て猫村」
飛びかかろうとした繁の尻尾を清丸が掴む。
「この者らには手を焼いているようだな。おまえが猫叉の矜持を忘れたとか言っておったし、俺はおまえ以外には招かれざる客だったらしい」
「教育が不十分でお恥ずかしい限りです……」
面白い──歓迎オンリーで当主に収まるのは都合が良過ぎる。鼻っ柱の強そうな雌猫たちの態度も清丸の興をそそった。
「三猫士よ、聖域守護がおまえたちの任務なのだな」
「黒猫亭を侵す輩は人間以外でも即排除!」
虎猫のチクリンが直立して猫拳っぽい構えを取る。
「ひとつ勝負をせんか」
「提案せずとも、こっちは臨戦態勢よ!」
白黒猫のバイリンが毛を逆立てた。
「おもしろい奴らよのう。よしよし、おまえたちの聖域守護者としての実力を拝見させてもらおうではないか。見事侵入者を追い出してみよ」
「バカねこの犬、自分から出ていってくれるんですって!」
ショウリンが腰をくねらせ嘲笑する。
「清丸さま、うつけ者どもの挑発に乗ってはいけません」
「やらせろ猫村。奴らを納得させるには、俺が黒猫亭の主に相応な実力があると体に教え込むに優る手段はあるまい? なあに殺しはせんさ」
「繁です……お手柔らかに」
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