第7話 濃紅″誕生

 「は、孕むってどういうことよ」

 「ただ殺すだけでは我が兄弟を討たれた遺恨は消えぬ。おまえを延々嬲り続けるために子を産んでもらうのだ」

 清丸が念力で濃紅を浮き上がらせる。四肢を広げた乙女に、滑った肉色のホースが首をもたげて迫ってきた。

 (あれって──まさか⁉)

 謎の管が男の体と繋がっているの見て濃紅は悲鳴をあげた。

 「待って待って待って! わたし初めてよおっ!」

 涙を飛び散らせて激しく首を振る。


 「化け物の子なんか孕んだら一族から絶縁されてしまうわ!」

 「すでに一度産んでおるのに絶縁も何もあるまい」

 「すでに……?」

 「今は何時なんどきだと思う。幻術で昼のように見えているが真夜中だ。おまえは俺に倒されてから日入りの後も嬲られていたのだ」

 「う、嘘よ!」

 「ついでに教えておくと、おまえは一度死んだ」

 「し……死んだ⁉ この野々宮濃紅が⁉」


 「この髑髏どくろが証拠だ」

 古木の根元に二つの頭蓋骨が並べられている。

 (二つ? 一つがこいつが食った男ならもう一つは?)

 胸中の疑問を見透かして清丸が答を与えた。

 「おまえの髑髏さ。正確にはおまえの母親の髑髏だな」

 「わ、わたしのお母さまは洛中にいるわ」

 「いささか理解力が足りんようだ。母親といっても野々宮濃紅の母のことではない。おまえは俺の前で野々宮濃紅が産み落とした子供なのだ」

 「えええええええ⁉」

 突拍子のない話が次から次へと少女剣士を襲う。


 青年の口から犬の吻がぬっと突き出した。

 「おまえは野々宮濃紅が俺の──今姿を借りている静馬という男の精を受けて、産み落とした娘なのだ。魔力で瞬く間に濃紅と同じ年頃まで成長させて、濃紅の記憶をそっくり受け継いでいるので実感が無いのも当然。自分で自分を産んだも同然だからな」

 「そ、そんな……」

 「武丸と智丸の仇をただ殺すだけでは終われまい?」

 卑猥に動く管の先端が乙女を深く抉った。



 ……二時間は経過しただろうか。

 復讐の淫獣に恥辱の刻印を押されること十数回、もはや野々宮濃紅は息も絶え絶えの有様で、ただ押し寄せる征服の嵐に翻弄された。

 手応えを感じて、清丸がニヤリと口元を緩める。

 「宿ったな」

 濃紅の膨れた腹の中身がせり上がってくる。

 魔性の子誕生の瞬間が訪れたのだ。

 「がはあああっ⁉」

 どばっと胃液とともに黒い粘塊が口からあふれ出した。

 汚物と見紛うほど滑った液体は、地面で泡立ちながら凝固し、黒い湯気をたてて這い回る矮小な人型への実体化を果たした。


 「よくぞ生まれた。三代目野々宮濃紅。濃紅ツーダッシュ″とでも呼ぼうか」

 闇の霧をまとった嬰児みどりごを犬神は抱き上げる。

 「強い波動を感じる。母親より優れた使い手に育とうて」

 有望な娘を産み落とせば、もう宙吊りで半死半生の二代目は必要ない。鳴動流一門の報復防止のために初代オリジナルの代わりに帰そう。

 「早く大きくなれ濃紅″。俺の永遠の下僕となるべく」

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