美子さまのいつもの我儘
東京ハウスには『黒湯』と呼ばれる温泉が引かれています。
晩餐の前にひとあせ流そうと……入っていくと……
サクラ・ハウスの面々がいます。
「紅葉、やっと来たのね、遅かったじゃない……」
東雲(しののめ)秋帆さんが云えば、
「上杉さん、お久しぶりですね、ご一緒だとか、よろしくお願いします」
小野園子さんも親しみを込めて声をかけてくれます。
「でも何の仕事かしら……やはり……」
伊集院彩夏さんが、口に出します。
高倉雪乃さんが入ってきました。
「つまらない事を云ってないの、私たちは美子様にお仕えしているのですよ、命じられれば遂行するだけでしょう」
「高倉隊長……私は何故、サクラ・ハウスに?」
「聡い貴女ですから、分かっているでしょう?多分その通りです」
「そろそろ晩餐ですよ、皆、身だしなみを整えて来なさい」
晩餐は豪華なものでした。
その席上で、美子さまは爆弾発言をされました。
「ロシア帝国はナーキッド協定に準ずる扱いです」
「中露戦争に日本は介入できませんが、ナーキッドにはそんな制約などありません」
「シベリアでは死闘が繰り広げられ、ロシアはアジアから撤退を始めています」
「しかしヨーロッパへ向かえなかったロシア難民は、ペトロパブロフスク・カムチャツキーへ向かっています」
「極東ロシア軍の北東軍集団は無傷でしたので、カムチャッカ半島のくびれである、巾百キロほどのパラポリスキー地峡に防衛ラインをひいています」
「現在ロシア難民は、残存のシベリア方面の軍に守られながらカムチャッカ半島にたどり着いています」
「ただ中国軍も、撤退するロシア軍を追いかけるようにパラポリスキー地峡に迫っています」
「ここを突破されれば、カムチャッカのロシア人は、皆殺しの運命が待っています」
「先に核攻撃をしたのはロシア帝国、復讐に中国軍は何でもするでしょうからね」
高倉雪乃さん、頷いています。
なるほど……出来レースの演説なのですか……うんうん……さすがは美子様……
忍は一人、納得しています。
この後、サクラ・ハウスに出動命令が出るもの……と確信していたのですが……
「そこで皆様に出動をお願い……」
でしょうね、皆、覚悟はできていますから……
「しようと思ったのですが、やはり皆様を危険にさらすわけにはいかない、私がカムチャッカに行くことにしました」
高倉隊長がかなり狼狽しています。
「美子さま!いけません、また我儘を!お立場をお考えください!」
「でも……皆さんが危険なのですから……」
「危険だから、美子さまには行かせられないのです!」
忍は唖然としました……美子さまって、物わかりのいい方と思っていたのに、とんでもない我儘……
いや噂通りのへそ曲がり……その実際を目のあたりにしたのです。
しかし忍は嬉しくもあった……困った方ではあるが、この方の我妹子(わぎもこ)でいられると思うと、ゾクッした。
美子さま……
「美子さま、今回は私たちにお仕事をいただけませんか?私たちも働かなくては、ご飯もおいしくないし、ね、皆さま」
紅葉さんが、
「そうですよ、私たちも元帝国軍人、夜は少し下手かもしれませんが、その分この銃でご奉仕いたします」
高倉隊長が、
「皆もそういっています、多少の危険ぐらいで、帝国軍人が怯んだとあっては末代までの恥です、ここは何としても私たちにお任せを!」
美子さま、黙ってしまいましたが、それでもお顔はかなりご不満そうです。
「まぁ、そんなお顔をしないでください、大丈夫ですから」
「そうですか……」
そんなこんなで、やっとの事、美子の出陣を抑えて、高倉隊長に率いられたサクラ・ハウスは初陣を迎えたのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます