第六章 忍の物語 カムチャッカ

シベリアを食べませんか?

 極東ロシアの僻地カムチャッカ。

 中露核戦争でロシアがヨーロッパへ撤退する時、極東地域に取り残された人々が避難してきた。


 そこへ膨大な兵力の中国軍が侵攻してきた……残存する極東方面ロシア軍は戦力不足。


 そこでロシア帝国は、カムチャッカ防衛にナーキッドの支援を要請してきた。

 ロシア帝国から代価をもらった以上、何とかしなくてはと、ミコは援助をすることに。

 上杉忍にも派遣命令が……


     * * * * *


 ロシア帝国の先制核攻撃が始まって十日ばかり……

 中国大陸の主要都市は灰燼に帰し、戦略核兵器などの近代兵器を失った中国軍ではありますが、膨大な兵員ゆえにまだ半分は残っていたようです。


 中国軍は報復として、残っていた戦術核をイルクーツクやウラジオストックに使用、シベリアの主要都市を壊滅させました。

 ユーラシアの東部は、互いの核兵器使用のおかげで放射能が蔓延、その中で補給の途絶えた軍隊が、相手を殲滅しようと死力をつくしています。


 ロシア帝国軍はウラル以西、ヨーロッパ・ロシアに向けて撤退を開始、シベリアを放棄しました。

 生き残りのロシア帝国臣民を守りながら、何とか撤退戦をやり遂げようとしている状況です。


 ナーキッド協定国に準ずるロシア帝国には、ナーキッドが開発中の、空気浄化システムの量産試作品が急遽貸し出されています。


 シベリア住民の半分は死亡したようで、さらに犠牲者は増える状況です。

 中国の状況はさらに深刻ですがナーキッド協定の国ではないということで、冷たいようですがナーキッドはあずかり知らぬ事となっています。


 そんな中、ナーキッドでは緊急の役員会などが開かれました。


 十月下旬、抜けるような秋空の帝都東京、上杉忍は東京駅に降り立ちます。

 ナーキッド・オーナーに、東京ハウスへ呼ばれたのです。


「お迎えに上がりました」

 元陸軍少尉の青木紅葉さんが、東京駅の新幹線ホームまで出迎えに来てくれました。

 二十三歳のこの元女兵士は、上杉忍に丁寧に接してくれます。


「ご丁寧に……」


「上杉さんと一緒に仕事をするので、迎えに行けと云われました、私もそれ以上は知らないのです」

「ただ上杉さんと、サクラ・ハウスのメンバーは、本日美子様の晩餐に呼ばれています」


 ……多分……中露核戦争の絡みでしょうね……

 上杉忍はそのように考えました……


「そういえば、青木さんとは六ケ月ぶりね……五月の京都の出来事が遠い昔のように思えます」

「そうですね……いまでは私たちはミコ様の我妹子(わぎもこ)……四月には、そのようなことは考えもしなかったのですが……」


「四月といえば、私なんかミコ様も知らなかったわ……そもそもナーキッドの話なんて、どこの話ぐらいだったのよ」


「こんなところでナーキッドの話もなんですから、とにかくどこかへ行きましょう」

「晩餐までには時間があります、上杉様は行きたい場所でもおありですか?」


「そうですね……帝都に来たのですから、女性はお菓子ですかね……シベリア――カステラに羊羹(ようかん)または小豆の餡子を挟んだもの、別名、羊羹カステラとも呼ぶ、ウィキペディア、参照――なんか、京都ではみませんから、女学生気分に戻ってシベリアとミルクなんて良いですね」

「お洒落なミルクホールなんか、どこかにありませんか?」


「シベリアですか……意味深ですね……」

「貴女もそう思う?」

「そう思いますね……ロシア帝国は、ナーキッド協定国に準ずる扱いですから……」

「シベリアを平らげに行きましょうよ」

「そうですね」


「でもミルクホールなんて、今ではほとんどないのですけど……そうだ、一つ思い当たる場所が……」

 ハンヴィーM1152を、銀座付近にある駐車場に投げ入れて、二人はミルクホールと看板が出ている、とあるビルの中に……


 すこし風情がありませんが、近代的なビルに意図的にレトロな感じの内装のお店です。

 アール・デコですね。


 この二人、もともと結構な美女さんのうえに、チョーカーが効いていますから、目立つことこの上なし。

 窓際に座って通りを眺めていると、行きかう人に眺められています。

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