銀行強盗に出くわしたの


 なんせ子牛ほどありますので、タバサちゃんを背に乗せるのです。

 お友達と二人で乗ってもへっちゃらです。

 ファリニシュちゃんと会うと、トトちゃんはちゃんと挨拶しています。


 黒い巨大な犬に乗っかって通学するタバサちゃん。

 キャッスルベイの有名人となりましたが、誰も変とは思っていないようです。


 マンクス・レディス・ハウスに住むということは、どう転んでもミコの女、普通ではない女。

 どんなに幼くても、その女は尋常ではないと、町の人間は認識しているのです。

 タバサちゃんだけがそれを認識していないわけです。


 今日もトトちゃんは、タバサちゃんを背に乗せて下校しています。

 その時、ささやかな事件が起こりました。

 銀行強盗に出くわしたのです。


 強盗団は強奪に失敗、行員を盾に銀行に立てこもっています。

 警察が取り巻き、時々、強盗団が発砲しています。

 

「どうしましょう……行員さんに怪我がなければいいけれど……」

 そこへ強盗団が放った銃弾が、タバサちゃんをかすめました。


「きゃ!」

 タバサちゃんが悲鳴をあげます。


 するとトトちゃんが伏せをします。

 どうやら危ないから、降りろと云っているようです。

 素直にタバサちゃんが降りると……


 トトちゃんがすごい声で吠えて、すごい勢いで走っていきます。

 銀行のドアを体当たりしてぶち破り、行内に突入しました。

 銃声とともに、すごい悲鳴が銀行の外に漏れてきます。


 しばらくして、トトちゃんが出てきました。

 何事もなくタバサちゃんの前に来て、伏せをします。

 今度は乗れと、云っているようです。


 こうしてタバサちゃんは、無事にマンクス・レディス・ハウスに帰ったのですが……


 イシスさんの耳に、強盗団の話が聞こえたようで、あわててやって来ました。


「茜おばさま!」

「タバサ、大丈夫、銃弾がかすったって聞いたけど?」

「ううん、側を通っただけ」

「そうなの、良かったわ」

 イシスさんは、安心したような顔をしました。


 でも、イシスさんでも慌てることがあるのですね、

 冷静に考えたら、チョーカーを身に着けているタバサちゃん。

 チョーカーが主を絶対に守るのですけどね。


「トト、仕返ししてくれたのだって、ありがとう、どうせなら息の根を止めておいてくれても良かったのに」

 強盗団は十分に代償を支払っています。


 なぜか全員、足に大けがをしているのです。

 足首のアキレス腱が切断されているのです。

「お礼をしなくてはね……トト、フェノゼリーを連れてきなさい、手伝ってくれたのでしょう?」


 トトちゃんは一声吠えると、どこかへ行きました。

 しばらくすると、『ものすごく大きな、毛むくじゃらのおじさん』が、トトと一緒に訪ねてきました。


 命婦(みょうぶ)さんが、少々怖そうに案内していますね。

「イシス様、フェノゼリー様が訪ねてこられました」

「お通しして」


 フェノゼリーさんに向かって、

「まずはお礼を申し上げましょう、ありがとう、それにしてもその草刈りの大鎌で足を刈るとはね」

 言葉は優しく丁寧ですが、貫禄十分のイシスさん、フェノゼリーさんは、相当に怯えていますね。


「ところでフェノゼリー、感謝と言ってはなんですが、ここで働かない?」

「女ばかりのこの館、貴方がいれば安心なのだけれど……」

「まぁ警備員と言うところです、報酬はそちらの希望に出来るだけそいますよ、住み込みでね」


 フェノゼリーさんは、マンクス・レディス・ハウスに住みつくことになりました。

 勿論住人に悪さはしません。

 そのおかげか、この白亜の館は、妖精の館として知られるようになりました。


 相変わらずタバサちゃんはトトに乗って通学です。

 妖精の館から、子牛ほどの黒犬に乗って、とても可愛い女の子が出てくる……


 キャッスルベイの人々は、タバサちゃんも妖精ではと思っていますが、本人はこれが普通の生活と堅く信じています。


 でも、タバサちゃん。

 乗っているその犬は、貴女だけが普通と思っているのですよ。

 キャッスルベイの人々は、皆知っているのですよ……

 トトはブラッドドッグ、マン島に住むモーザ・ドゥーグ、恐怖の黒妖犬だってことを…… 


    FIN

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