交渉相手は誰がいい?


 志玲は志玲なりに考えました……

 急には良くならない……一度成立した社会風習は、簡単には変わらない……


 この地域は地域なりに、うまく成立しているはず……

 ミコ様がおっしゃっていた……

 物事はほっとけば、落ち着くところに落ち着く……

 ただ着陸地点へ、うまく誘導すればいい……


 マシな奴隷制度……ね……


「ねえ玉楼さん、いま大陸は、二十の勢力に分かれているの?」

「産科施設が権力の象徴である以上、その数ですが」


「その二十勢力の代表は、呼べるのですか?」

「可能と思います、産科施設には、メンテナンス用の転移装置があります」

「こちら側の出口をここに指定すればいい事です、脅せば拒否は無いはずです」


「来るとは思いますが……言うことを聞くとは、思えませんよ」


「……ミコ様の手法を真似しましょう、飴と鞭……」


 玉楼さんは、黙って準備をしてくれました。

 そして二十勢力の代表団が集められました。


 志玲は臆することなく、こう言いました。

「まず要求します、聞いたところでは、四十を超えた奴隷は殺しているとか……これはやめてもらいます」

 誰も返事もしませんね……


「返事が無いということは、受け入れられたと判断しますよ、それは誓約ととりますよ」

「ナーキッドは誓約を重視します、もし誓約を破れば……皆さまはどうなるか、その目で見てきたはずです」


 ざわざわとしてきました。

「交渉の余地はあるのか?」


「いま申したことは絶対です、しかしそのための要望には、耳を傾けることも可能、というより、皆さまとそのためにお話をしたい……」

「そのようにとっていただきたい、トラの威を借りて、話はしたくありません」


「しかし今回、これが実現できなければ、私は辞任します」

「次の交渉相手は、うっかりするとミコ様になりかねませんよ、そうなれば皆さまは、大変困った立場になります」


 さらにざわざわとしてきました。

「ミコと……あの冷酷な女と……」

「失礼ですよ、ミコ・さ・ま・です、私を含めて皆様の・あ・る・じ・です」

 沈黙があります。


「確かにあの方は、我らの生死を握っている方……我らも直接には、交渉などしたくない……無様な死に方はしたくない」

「はっきりいえば、あの方との交渉など『薄氷を履むが如し』」


「とにかく、今回はうまくやらなければならない、私も貴女方も、互いの顔を立てながら……」

「私も今回の事は、うまくやらなければならないのです」

 志玲の言葉には、嘘はありません。

 たしかに劉一族にとっても、軟着陸をしたいのですから。


「一つ聞く、奴隷の扱いだが、四十以上の奴隷を殺さねばいいのだな」

「扱い方によるでしょう」


「では我らの今の特権を、認めるとするなら、どこまですればいいのか!」

「最低でも奴隷なりの権利を認めなくては……つまりその昔の農奴ぐらいは……」


「ロシアの農奴制度か……しかし農奴といえば、三級ではないか……」

「そうです、私の考えでは、皆さんにも三級市民になっていただきたい」

「三級になるには、かなりの犠牲も必要でしょう、しかしその気があるなら、ミコ様に何とか直訴してみます」


「あの方に直訴?失礼だが、貴女にそのようなことが出来るのか?」

「かなり私も犠牲を払うことになります、かなりの叱責をいただくでしょう……」


「しかし直接に訴えることはできます、こう見えても私はミコ様の寵妃なのですから……」

 寵妃以外の話は嘘ですけどね……しかし代表の方々は息をのみました。

「寵妃……」


 一人の方が、「失礼だが寵妃ならば……」

 志玲は「これですか?」と、不可視にしていたチョーカーを表しました。


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