劉志玲


 テラ・メイド・ハウスのウェイティングメイド、上杉忍は優秀だ……

 この女は、芙蓉などとは比べ物にならない……


 このテラの事実上の最高権力者、全てを取り仕切るぐらい何ともないはずが、対東アジア政策を全面的に我らに任せている……


「私も女、誰かに助けてもらいたいのです、よろしくお願いします、うまく助けてくださいね、お礼にお菓子など差し上げますから」

 いけしゃあしゃあと、戯言をいってくる……


 警告と忠告が混じっているのは明白……対東アジア政策をうまくやって見せろ。

 これにはもう一つ含まれているはず……モラル……

 特に弱者に対しての、取り扱い方が監視されるはず……


 とりあえず、私の目の黒いうちは、行政は大丈夫……

 日本列島への対策は、芙蓉が第六台場から陣頭指揮をとっている。

 現に列島を、不法占拠している者どもへの対応は大したものだ。


 芙蓉なら間違いない、あのミコ様が寵妃にしたぐらいの女……

 忍ほどではなくても、間違いなしに優秀……

 それに芙蓉がしくじっても、寵妃の失敗……ウェイティングメイドの上杉忍も何もいえまい……


 問題は大陸対策……誰が香港で四級市民と対話するのか……適当な人材がいなければ志玲なのだが……

 寵妃の失敗なら……問題が表には出にくい……しかし……志玲では……押しが強くない……


「おじい様、お加減はいかがですか?」

 孫娘の志玲の言葉に、現実に引き戻された。


 劉志玲は二十一歳、スラッとした長身、細長い卵形の顔、姉によく似ている。

 姉の芙蓉ほどの優秀さはない、よくも悪くもお嬢様、自主性というものは、あまり見受けられない。

 このような評判の娘だが、おっとりとした中に隠れている、聡明な知性を老人は評価している。


 この日、劉志玲は、日本列島九州島の端島にある、高層アパートメントの老人の家を訪れた。

 母の月娘、姉の芙蓉、そして志玲、劉家の美貌の女たちは、祖父を囲み月見をするのである。


 祖父の家はさして広くもないが、それでも最上階であるので、ルーフテラスがついており、特別に屋上庭園などが造られている。

 この端島では、かなりの高級住宅なのである。


「志玲か、綺麗になったな、ミコ様に可愛がってもらっているか?」

「私なんか……」

「そうか……焦ることは無い、お前はお前の良さがある」

「私……姉さんのおまけですもの……」


 老人はつい笑ってしまった……

 変な言い回しだが、自分を見る世間の目を、正確に理解しているのに感心もした。

「ひどいわ!」

「すまん、すまん、志玲は可愛いいの」


 そして思った……今日は中秋節、月を愛で月餅を食べる日、月餅は一家団欒の象徴、均等に切り分ける……

 志玲にも芙蓉と同じように……


 たしかに大陸対策は、志玲にはチャンスかもしれない……

 寵妃になってしまったのだ……抱かれるだけでは不憫……


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る