新世界へ


 アイハンは毎日庁舎を見回った。

 庁舎内を歩きに歩き、アイハンの目に留まった者は親しく言葉をかけ、握手をした相手の掌に中に金貨を一枚握らせた。


 人は簡単な生き物、これだけで歓楽都市ルナ・ナイト・シティは息を吹き返した。


 握らせた金貨はどうして入手したか?

 アイハンは叩き潰したカジノを、市の公益法人としその収益金を当てたのだ……

 膨大な金額であったので、それを麻薬や孤児などの重大犯罪被害者の生活資金に充てたその剰余金である……


 さらにカジノ・賭博・売春などには、税金を歓楽賭博税として追加徴収、町の美観などに充てた……

 一年計画用と長期積立計画用に分け、この金額を公表し、使い道に対して市民の要望を公募した。


 例をあげれば、ルナ・ナイト・シティの噴水である。

 その昔、テラのラスベガスのベラージオホテル前の噴水をそっくりそのまま再現した、これは絶大な人気となった。

 また世界中の歴史上の建物を、ミニチュアで再現したテーマパークも計画されている。


 ルナ・ナイト・シティは人々の欲望を呑みこんでゆく。

 冷酷なアイハンを管理官にしたということが、どのような意味を持つのか、この町の裏側の組織は思い知った……


 歓楽賭博税は、いわゆるこの者たちの目こぼし料……これが生きるためのおおっぴらな賄賂……そのように理解した。


 だれも麻薬などはしなくなった……人身売買もない……どんな形となっても、売春は当の本人の合意があって、娼館に限って許可される。


 娼婦の稼ぎは店との折半、店は分配金のなかで娼館使用料を、女の身体の使用料と相殺と規定した。

 前払い支度金を受け取ったらそれは負債となり、生きている限り完済する義務がある。


 前払い支度金の証書には、売春婦自身の自署が必須で、もし本人の同意がなければ、不思議に署名ができない。


 歓楽都市ルナ・ナイト・シティは、マルス社会で確固たる地位を確立するのにそんなに時間はかからなかった。

 惑星テラの二級市民地域交流施設を通じて、食材を調達、かなり懐かしいテラ料理も、ルナ・ナイト・シティの名物となっている。


 アイハンは近くの、直径二十六キロのゲリュサック・クレーターと直径五十六キロのエラトステネス・クレーターの開発計画も立てた。


 特にゲリュサック・クレーターは近くにあり、太陽光をふんだんに集めて、ルナ・サンシャイン・タウンとして、ルナ・ナイト・シティ永住居住地区とする計画だ。


 エラトステネス・クレーターには、ルナに農地を作る計画を立てた。


 最終的にはルナ・ナイト・シティはコペルニクス地区、ゲリュサック地区、エラトステネス地区の三つの都市からなる、巨大な都市として計画されることになった。


 一年後、突貫工事で何とかゲリュサック地区は完成、歓楽都市ルナ・ナイト・シティは、陽ざしの町を手に入れた。


 アイハンは管理官としての手腕を評価され、念願の夫人に昇格……正真正銘の三十歳の身体となった。


 そして執政官となり、新たな赴任地の惑星ジャーリア――最後の審判戦争の後、男性体遺物との戦いで、有機体生産工場の生き残りの生体に与えられた惑星植民地――が待っていた。


    FIN

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