上から下まで腐りかけている


 山ほどジゴロをいなしていると、店のものがやって来た。

「お客様、あちらのお客様が、一杯いかがとおっしゃっています」

「いらないわ」


 その店員は声を潜め、

「私の手をご覧いただけませんか?」と……


 見れば掌に隠すように、護身用の小型拳銃を持っている。

 『ボンドアームズ・バックアップデリンジャー45 ACP 2.5インチバレル』、45ACP弾二連発、重さ約525gですね。


「お願いできませんか?」

「喜んで……」

 アイハンは少し怯えたふりをした。

 内心は餌に食らいついた魚、小躍りしたいぐらいなのだが。


 バーのカウンターで、一人の男が待っていました。

「失礼しました、何としても一杯おつきあいしていただきたく、どうぞ、オールド・ファッションド――カクテル、ライかバーボンウィスキーをベースに、角砂糖にビターを振りかけて、オレンジとチェリーを飾る――です」


「ウィスキーは嫌いなの」

「では、鉛をお食べになりますか?」


 アイハンは再び怯えたふりをし、さらに目をつぶる演技をして、最後に本当に飲みました。

 ビターには、たっぷりと麻薬が入っていました……しかも強力な催淫剤も……


 効かないけど、効くふりをしなくては……

 感じているふりをすればいいのね……ミコ様との夜を想像して……あぁ……


「どうやら効いているようだな、お客様を呼んで来い」

「この女を差し出せば、市庁舎の役人どもも思い通りだ」

「おおっぴらに賄賂を掴ませればいい」

 ふん、こんなことと思ったわ……どうやら上から下まで腐りかけているようね。


 店員に抱えられるように、店の奥につれて行かれた。

「よく効くな、この催淫剤」

「そりゃあ麻薬も込みだからな、いちころよ、もうこの女、麻薬と催淫で狂うだろう……」

「後で俺たちも食えるだろうよ……半年でボロボロさ」


「娼館にたたき売れば、よい金になるのに」

「馬鹿かお前、娼館に売れば、手入れがはいる」

「いくら市の役人を抱きこんでも、ミリタリーの目に入る……問答無用で殺されるぞ……奴らは地獄の魔女だ、知っているだろう」


 ミリタリー?そうだった……

 宇宙列車の路線は、ユニバースというミリタリーが管理している……

 シティは民間だが、ユニバースが治安の権限を握っていた……

 ミコ様が多少、融通が利かないといっていた……


 このルナ・ナイト・シティは、人々の息抜きの場所……締めすぎず限度は守らせる……なるほど冗長性というやつか……


 やはり一度見せしめが必要……大粛清はやめておかねば……腐ったものは腐ったものなりに、機能させなければ……人々の生活は止められないのだから……


 さてお客というものを待ってみるか……少しは演技を続けなければ……まぁ、それもいいものだ……ミコ様……また、抱いて……アイハンを無茶苦茶に……


「この女、濡れてきたぞ……」

 あとでこの者たちは殺してやる。

 ミコ様以外に私の痴態を見た以上、死に値する、理由は問わない……


 その時、客がやっと来た……なんと女だった……その女は、アイハンを一目見て、真っ青になって逃げようとした。

「逃がさぬ!」


 アイハンはイメージをした、その女を拘束するイメージ……

 そして、銃を異空間倉庫より取り出した。

 ナガンM1895……ベルギー製であるが、ロシア帝国の軍用回転拳銃……

 アイハンの愛用する銃、それが掌に現れた。


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