牝鹿の肢体


 次の日、グローリア・オルコットは、クイーンエリザベスシティのナーキッド事務庁舎の貴賓室に呼ばれました。


 一応グローリアも毎日通勤している職場でもありますが、彼女の執務室は別室の管理官室、意外にもグローリアは目配りの出来る管理官だったのです。


 まぁ女としての日常生活、いわゆる生活IQは限りなく落第レベルなのですが。


 貴賓室には、昨日の夜やってきた上杉忍がいました。

「昨日シャトル内で娘さんに会いました、二人とも綺麗になりましたね」


「ありがとうございます」

 グローリアは、忍が何をいいたいのか理解できません。


「二人とも采女ですよね、シェリルは十八ですね」

 忍がニコッと笑った、そしてさらに云いました。


「今日ミコ様がお越しになります、私はお昼にお仕えいたしますが……たしか今夜は貴女が侍ることに変わっているはず、ハウスキーパーのサリー様から通達があったでしょう?」


 そう、グローリアは今夜、主の夜の相手をすることになっています。

 その為に、昼からは公欠となる予定です。


「ミコ様は昨日、領土譲渡問題で三級市民国家の首脳と硫黄島で会談されています、それは無事妥結しました、ただやはり問題がね」

「……」


「ご機嫌取りに、女を献上するといってきたそうです……」

「……」


「ミコ様はやんわりとお断りになりました」

 なぜかホットとした、グローリアではありました。


「私としては、テラ・メイド・ハウスの女がミコ様のご寵愛を受けるのなら反対はないのですが、三級市民国家の献上品を抱かれたとなるとね……」


「つまり直接献上などといわず、テラ・メイド・ハウスに女を収めてからの話ならよかった……」


「その通り、この惑星はマルスから独り立ちすべきでしょう……事実、ナーキッドではそのように考えています」


「そのためには寵妃が増える方がいい……しかし直接献上されると……テラにはメイド・ハウスが二つできる……」


「すると……この惑星テラは惑星マルスの一部として分割統治となっていく……それは誰も望んでいないが、可能性が芽生えてしまう」


 忍はさらに続けた。

「テラ・メイド・ハウスには人材は不足していない……これからは惑星テラの直轄惑星への昇格の為に、ヴィーナス・ネットワーク内での発言力を高めていく」


 グローリアは意味が理解できました。

「まことに光栄なことと思います、娘たちにはこの日の為に厳しく躾(しつけ)しています」


「ミコ様は基本的には無理強いは嫌われます、ただアデラインのように仕方ない時は別ですが」

「本人たちは望んでいます」

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