ミコ・バースディ・ホリディ―のシャトル
二月二十三日――ミコの誕生日――はマルスの文化圏では祝日なのです。
ミコ・バースディ・ホリディーで、その週はお休みなのです。
ちなみに他の文化圏でも、何かしらのミコ様関連の休みがあるようです。
小笠原ステーションの日本時間の夜九時発のテラ循環シャトルのデヴォン島方面行きは、カナダ東部時間と日本との時差はマイナス十四時間であるので、朝の七時五分着となります。
つまり五分しかかからず、シャトルは早朝につくのです。
いつもがらすきなのに、今日に限って混んでいます。
「どうしたのかしらね?」
ノーマが怪訝そうにいいます。
「どこかの偉い人が、乗って来るのじゃないの?」
と、シェリルが答えます。
「それよりシェリル姉さん、バレンタインのチョコレート、誰かに贈った?それとも貰った?」
この頃は、我妹子婚も認知されだしています関係上、バレンタインは大変なのです。
つまりもらう方も贈る方も女性、とくに女学校では一大イベントになっています。
「……」
「もらったんだ!ねえねえ、誰から?」
「下級生から……それと……小笠原高女付属女子小学校の生徒からも……」
「それではわからないわ!どこの誰からよ!」
「いいじゃない、誰でも!それよりノーマはどうなの?貴女、意外にもてるでしょう?」
「たくさんもらったわ、でも送った方はひ・み・つ!」
「あら、私には呉れなかったわね!」
二人が熱心にそんな話をしていると、その頭の上から声がしました。
誰かと思えば、テラ・メイド・ハウスのウェイティングメイドの上杉忍でした。
ウェイティングメイドとは、分かりよくいえば女官長、ハウスの最高責任者のことです。
二人は弾かれたように立ちました。
ミコのメイドたちは、徹底的に上位の者に対して従うように教育されます。
この時も無意識にそのような行動になります。
「上杉様……デヴォン島へ?」
「まあね、噂の話でね……」
忍は二人に、学生生活の事など聞いています。
「そう、楽しいのね、良かったわね」
五分も立たないうちに、シャトルはデヴォン島ステーション、「早いわね、味も素っ気もないわ」などと云いながら、忍は先にシャトルを降りていきます。
「はぁ……びっくりした……忍様と乗りあうなんて……息が止まるかと思ったわ」
と、ノーマが云いました。
「忍様って佳人だったのね……なんて綺麗なのかしら……嫌になってしまう……」
シェリルがこぼすと、ノーマが、
「えらくなると綺麗になるのよ、シェリル姉さん、知らないの?」
「そうなの!」
でも二人とも、とても美しいのに……他人はさらに美しく見えるもののようです。
その証拠に、忍がステーションを歩きながら、
「ノーマも綺麗だけど、シェリルって不思議な魅力があるわね……側女に推薦しようかしら……足がすらっとして……牝鹿みたい……」
「ミコ様、ちょうどデヴォン島に来られるし……テラ・メイド・ハウスとしては、寵妃は一人でも多いほうがいいし……明日のお昼のデザートに……でも明日のデザートは自薦したいし……」
などと呟いていました。
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