戒厳令


 意外にグローリアは忙しく、結局シェリルが母の面倒を見る始末……

 のんびりと極北の八月の、暑くない夏を過ごしている三人なのです。


「ママ、早く起きないと……今日は『近衛師団』の長谷川司令官の着任歓迎会でしょう?」

 しばらくぽっーとしていて、意味が理解できなかったグローリアでしたが、

「いけない、着任は十一時!」


 かばっと起きると、あわただしく化粧などを始めて……あれやこれやの服を引っ張り出して……

 ノーマが「そんなことより早く!十時半よ!」と叫びます。

 これ以上ないほど散らかして、猛ダッシュでグローリアは出かけていきました。


「もう、ママったら……よくミコ様のメイドをできる事……」

「本当に……」と、ノーマもうなずく次第……


「ナーキッドはアメリカと……」

 ノーマが不安そうにつぶやくと、シェリルが、

「長谷川司令官が着任した以上、近々でしょう……私たちはミコ様の女、とにかく気持ちよく戦ってもらえるように、接待しなくては……」

 シェリルが、大人びたことをいっています。


 着任したのは『近衛師団』の長谷川司令官だけではありませんでした。

 なんと愛人エールと、ヴァルキュリヤチームがいたのです。


 愛人などという方々は、シェリルにとっては雲の上のそのまた上、ヴァルキュリヤチームというのは、ミリタリーハウスでも図抜けて戦闘力の高い方々が集まっているチーム、全員佳人なのです。

 またAn―24ルスラーンという輸送機が三機、デヴォン島の空港に駐機しています。

 かなりの軍需物資を空輸してきたようです。

 さらには防衛用の陸戦ロボット部隊も起動しています。


 長谷川司令官の着任の挨拶が、

「皆さん、ただいまよりデヴォン島直轄領には戒厳令を発します、噂どおりアメリカと戦端を開くかもしれません」

「ナーキッドによるこの地の防衛体制は完璧といってよいでしょう、しかし不必要な外出は控えてください」

「また交通機関等は軍事が優先されますので、少しばかり皆さまに協力を願うことになります」


 集まっていた人々は、覚悟していたのでしょう。

 動揺はありませんでした。


 愛人エールが、

「グローリアさん、デヴォン島のメイド・ハウスは、明日より軍務に協力していただきます」


 その日の夕刻、グローリアたちは、食事をとりながら次のような会話をしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る