ep.22 白日
随分長い間髪を伸ばしていたから
晒された後ろの首元が陽の光に当たって暑い。
ショーウインドウに映る自分の横顔が目に入って
随分思いきり切ってくれたな、とニヤついた。
どうせなら、と横も後ろの襟足も刈り上げに近く。
前髪は少し残してくれた。
前髪と頭頂をクシャクシャと手で崩して
頭を左右に振る。
なんだ刈り上げたトイプードルみたいじゃないか。
髪を切ってもらい
そのままりなちゃんの家にいて
毎日彼女とセックスした。
彼女がそれを望んでると思ったから。
本当のところはわからないけど
俺もそうしたかっただけのことだ。
彼女はかわいい。いい人だ。
俺の短絡的な考えで
誰も彼も傷つけてしまう。
俺が欲しいんだろう?俺に抱かれたいんだろう?
傲慢な俺は彼女の身体を抱きながらどこかでそう思ってたんだ。
最低だ。
本当に最低。
それでもやっぱり俺がずっと考えてしまうのはヨウさんのことだ。
彼に会いたい。
もう一度彼の前で歌を歌いたい。
俺はなんで歌を歌うようになったんだろう?
自分の声は好きじゃない。
できればもっと伸びやかな声に生まれたかった。
でも俺が声を出すと
何か自分自身のなかで何かが弾ける。
地鳴りのような。
下から湧き上がってくるような何か。
俺の声は俺の身体ごと振動し
それに包まれると身体中が熱く燃え上がる。
それまで俺は自分自身のために歌っていた。
でもヨウさんが俺の前に現れてから
ヨウさんが俺を見るだけで
俺の歌を聴いてくれるだけで
何百倍も振動が倍増するような気がしたんだ。
何か意味のあることを歌っているような気がしたんだ。
俺にとってはそれがすべてだ。
CDもツアーもどうでもいい。
俺が歌うことでヨウさんが幸せになるのなら。
なんでもやったしやろうと思った。
でも俺が歌うことでヨウさんを苦しめているのも知っている。
それは俺にはどうしようもなくて。
檻の中に飼っているライオンは
飼いならされてしまって雄叫びを忘れてしまった。
俺の鋭い爪は
愛すれば愛するほど
相手を傷つけることを本能的に知っている。
ずっと眠らされていたので陽の光が眩しい。
もう檻から出たいのに、怖い。
会いたい。
ただ会いたい。
でも用意されている目の前の道を
俺は歩いて行く自信がない。
りなちゃんの家を半ば逃げるようにして出てきて
ヨウさんのマンションの前に来たけど。
これから話さなきゃいけないことを言い出す勇気がなくて
またそこから俺は逃げ出した。
ほらやっぱり最低だ。
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