ep.21 アンクレット

実際のところ、俺が社長に頭を下げている頃

ユキは俺の元を去っていたのだ。

気付いた時はもうあいつはいなかった。

また逃げられたと社長に言ったら

今度こそクビかもしれない。

空っぽの部屋。

もともとあいつの荷物はあまりなかった。

ユキという人間がここにいたという

痕跡がかすかに空気に記されているだけ。

でもあいつの不在が

濃く淀んで俺を押しつぶす。


また仕事に戻りたいか?と

俺は聞くこともしなかったのだから

こうなって当然だ。

あいつもわかっていたはずだ。

いつか答えを出さなければいけないことを。

それが俺たちにとって

決定的な決別だということを。

この世界に引きずり込んだのは俺だ。

仕事をさせるのも

印籠を渡すのも俺でなければいけない。

なのに何だ。

俺はグズグズと迷って

ただそばに置いておきたいという子供染みた願いで結論を引き延ばした。

傲慢な望みだ。

あいつのことを自分を必要としてる存在

俺にだけ懐いているペットのように扱っていた。


ユキは俺が自分の首を差し出そうとしているのを察したんだろう。

またどこかへ行ってしまった。

クビか。

クビかな。

もうどうでもいい。


ベッドの下に光るものがあった。

金の細いアンクレット。

デビューする時俺が買ってやって

ユキの細い足首にいつもあった。

俺はユキの足首をいつも舐めて

あいつが喜びに震えるのを見た。


外れてしまったのか、わざと置いて行ったのか。

手にとった時

俺はやっと悟った。

俺はユキに捨てられたのだと。

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