ep.19 ライオンは寝ている (リプライズ)
「うちでいいの?」
公園でもいいけど流石にちょっと目立っちゃうから
そう言ってユキは芝居掛かった仕草で目を伏せてみせた。
髪を切ってくれと言い出して
冗談で言ってるのではないと気づいて
流石に少し怖くなった
あれほど切らないことに拘っていたのに。
「会社は知ってる?許可もらってる?」
「そんなのいらないよ。アイドルじゃあるまいし」
公園を出てうちのマンションに着くまでの間
ユキは時々立ち止まっては人の家の門の中を覗き込んだり
道端に咲く小さな花の写真を撮ったり
立ち止まって空を見上げたりしていた。
私はそんなユキの一歩前を時々振り返りながら歩いた。
振り返る私と目があうと
ユキはいつもスタジオや楽屋の鏡の中で見せていたような微笑みを浮かべる。
胸がキュッと苦しくなる。
私のことを見ているようで見ていなかった。
鏡という媒体に映し出される
自分自身と
別の誰か。
私と話すときはいつも鏡に映った自分ごと見ているんだ。
自分自身と会話しそれを邪魔しない存在が私だ。
今ならそれがわかる。
突然鏡と自分との間に割り込んで
意見めいたことを言い出した私(異物)に
心底驚いただろう。恐怖だったかもしれない。
ユキのことわかってると思い込んでいた自分が恥ずかしい。
ただユキを否定しない
かき乱さない
柔らかく包み込む手のぬくもりをユキは欲してた。
誰でもいいわけではなかった…
それはそう思う。
せめてそうであって欲しいと思う。
今でもそれを望むなら
あげることはできるだろう。
本当にそれをユキが望むなら。
できるならこの道がいつまでも続けばいいのに。
道草を食っているユキをいつまでも見ていたい。
部屋に着いてしまったら
それはそれなりの現実が待っている。
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