ep.13 風に吹かれて

「ユキ」


「ヨウさん?」


ユキの声を聞いて

俺は鼻の奥がツンとして

そのあとの言葉に詰まってしまった。

そして言うつもりがなかった言葉が口から出た。


「お前は俺なんだよ」


「…」


「聞いてるか。ユキ」


「聞いてるよ」


「お前がいなかったら俺は価値がない人間なんだよ」


「え、そんなことないよ。なんでそんなこと言うの」


「お前に会う前は全部中途半端で…プロでやっていけなくて」


「ああ、留学してたんだってね。社長から聞いたよ」


「お前が死んだら…俺も死ぬ」


「…やめてよ。死なないよ」


「お前を通してだけ俺は生きていけるんだよ」


ユキはふっと笑った。


「詩人じゃん」


「わかってるのか。本当に?」


「わかってるよ。ヨウさんが思ってるよりずっとわかってるよ」


「なあユキ」


「ん?」


「もうやめてもいいんだぜ」


「…」


「お前を売りたかった。俺の代わりに」


「ヨウさん」


「ん?」


「ヨウさん、間違ってるよ。これ以上ないってくらい間違ってるよ」


「ヨウさんが俺の光なんだよ。気がつかなかったの?

ヨウさんが俺を光らせてくれたんだよ。

どうして優秀な宣伝マンがそんなこともわからないんだ」



しばらくの沈黙ののちユキは静かに言った。


「俺がヨウさんを自由にしてあげなきゃいけないんだね」


「ユキ、死ぬな。死なないでくれ」


「死なないよ」


「本当だな。俺も死ぬからな」


「はは…わかったよ」


「じゃあね、ヨウさん」


風が吹くようにそう言って電話は切れた。



翌日、ユキは姿を消した。

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