第5話アンハッピー&アンハッピー
―――死ぬか。
机に鉛筆で死ねと書いてあるのを見て、そう思った。
その字がショックだったわけではない。
それを見て見ぬ振りしたクラスメイトにショックを受けているわけではない。
ただ、人生ってなんだかな、とふと思うことが何回かあり、たまたまその日に結論が出ただけだ。
今回のことはきっかけではあったが、自分が世界という舞台から面倒くさくなったから、降りたいだけだ。
3人がにやにやしているのを感じながら、机の落書きを消しゴムでこすった。
「おはようございまーす」
聞きなれない女の子の声が聞こえた。
皆がその子を見た。
そして、周りを見渡し、空席に向かおうとする途中で俺の前を通り過ぎようとする。俺は机の落書きを消す作業を一時中断し、その女の子の顔をまじまじと見てしまった。それに気づいた彼女と目が合ってしまったので、慌てて視線を背け、それとなく机を隠す。
しかし、彼女はそれに気づいたのか、彼女は俺の席の前で立ち止まり、机を見る。
「ねぇ、君。名前は?」
「えっと…安藤拓未」
「そう、私は春原杏。今日からこの学校に来たの。よろしくね」
そう言って、彼女は笑顔で手を差し伸べる。躊躇ったが俺も手を出して握手する。
「それで…聞いてもいい?」
うん、とうなずく。
「こんなことをして許されるくそみたいなクラスなの?ここは」
杏は笑顔だったが、目は笑っていなかった。
「いや…」
「あっ、そう」
「君は何か悪い子なの?」
黙っていると杏は『そう』と呟き、周りを見渡す。
ほとんどのクラスメイトが目を逸らすか、ぼーっとこちらを見続けている中、睨んでみている三人を見つけると、『あぁ、あいつらね』とぽつりと言って彼らのところに歩き出す。
「あれやったの、君たち?」
「あぁん⁉なんだよてめー」
「そうでしょ?」
「そうだったらなんだってんだよ」
「そうだっていうんだったら…こうだってんだよ!!」
いきなり殴りかかった。3人を殴り倒して、彼女はまた叫ぶ。
「気分が悪いんだよ!!」
彼女は大暴れした。
そのあと、先生が来て喧嘩していた4人が呼び出された後に俺が呼ばれた。先生は優しい言葉をかけたが覚えてない。スカっとした気持ちと杏のことで頭がいっぱいだったからだ。
クラスに戻り、杏に話しかけた。
「春原さん、その…びっくりしたけど…ありがとう」
「別にいいよ、お礼されることじゃないし。見ていて不快だったからやっただけ。私のためにやっただけだから」
素直に生きている彼女が羨ましく見えた。
それからいじめはなくなった。
そして、いつの間にか彼女を目で追っているうちに俺、安藤拓未は彼女に恋をしていた。
それから願った。彼女に幸せを。
自分が持っている運を全て彼女に、と。
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