第12話 降臨
―――日本列島が消滅する15000年前【日本列島九州地方 高天原】
アダムスキー型脱出シャトルに装備されていた、蒼黒いずんぐりむっくりした防護服を身に纏ったイワフネが、同行する部下に語りかける。
「外の空気はマルスと変わらないし、そのままでもいい気がするのだが……」
「イワフネ隊長、未知のウィルスや生物、現地人に攻撃される可能性を考えると、安全策として最初はこの服しかありません!」
若手のモウゼが言い切った。
イワフネは溜め息をつきながら縦長の瞳孔を細めてモウゼを見据えると、指示を出す。
「仕方ない。では、行こうか。今日は山裾の環境調査だ。繰り返すが武器は持つなよ。こちらから現地人に危害を加えてはならん!
防護服から出るレーザーバリアで充分だ」
ゴーグルを頭に装着しながら、同行する二人の部下に探索手順を再度確認するイワフネ。モウゼとユダがわかったと無言で頷く。
アダムスキー型脱出シャトルから外へ出たイワフネ達は、ゆっくりと山を降りていく。 途中の森や集落で遭遇する人間は鱗が無く、ヘソが有ることから、何らかの哺乳類から進化した人種と推測された。色白だが本来黄土色の肌を持つ彼ら彼女らは、麻の簡素な衣類を身に付けていた。
身長が3mを超すイワフネ達の巨体と、ずんぐりした防護服は、現地人に強く印象付けられ、興奮した人々の中には、その場で土を捏ねて彼らの姿形を再現しようとする者も現れた。
その日以降、イワフネ達はアダムスキー型脱出シャトルで日本列島各地を廻り、詳しい調査を行いながら、現地人と接触したり、時には現地人を襲っていた大蛇の群れや大イノシシ、僅かに生き残っていた水棲恐竜から助け出したりした。イワフネ達の特異な格好や、脅威となっていた野生動物を圧倒的な力で退治する光景は各地の人々に強い印象を残し、子孫の代へ神話として口伝されたり、彼らを象った土人形が魔除けとして日本列島中の集落で奉られていったりとするのだった。
イワフネ達『ルンナ』搭乗員の生き残りは、数か月をかけて日本列島と後の極東と呼ばれる一帯を探索し、食料やエネルギー源確保に最適とみられる日本列島北陸地方に位置するとある山地に拠点を築き、日本列島のみならず世界中を廻る様になるのだった。
♰ ♰ ♰
2021年(令和3年)1月3日夜【太陽系第4惑星マルス(火星) オリンポス山 】
日本列島が火星に転移して約20時間後、火星の大地に出現した半径1500km余りの細長く強大な電磁フィールドと重力波振動を放つ巨大質量空間の出現は、永い眠りについていた火星地下のマグマを急速に刺激していた。
日本列島転移24時間後、標高27kmという太陽系最大の火山は天空へ向けて咆哮するように赤い炎と煙、無数の火炎弾を噴き出した。
流れ出た溶岩はすぐに極寒の大地で固まったが、すぐに新たな溶岩流がそれを乗り越えて赤い大地に拡がっていった。噴出した火炎弾は火星各地に降り注いだが、一部は第5惑星(木星)の重力に捕らえられて分厚い大気を持つ第5惑星の奥深くに落下した。
第5惑星である木星は、惑星構成要素の大半がメタンや窒素などの気体である。
地球の100数十倍の厚みを持つ大気層の奥深くに落下した火炎弾は、木星大気や気体が固形化された大地に接触すると著しい化学反応を引き起こした。
木星の有名な特徴である大赤斑の様な模様が木星の各所で発生し、いくつもの不気味な眼が火山弾を送り込んだ第4惑星と、原因を作り出した第3惑星を睨んでいるように見えた。
♰ ♰ ♰
―――日本列島が火星へ転移した3日後、1月4日夜。
オリンポス山の大噴火は衰えることなく続いていた。
太陽系最大の火山であるオリンポス山の大噴火は、火星北半球に集中する他の火山噴火を誘発、目覚めたばかりのマグマを地上へと送り込んだ。惑星規模の大規模火山活動に伴って排出された噴煙は、火星を覆う大気となり、地下で蠢くマグマの流れは磁場、重力を産み出して生まれたばかりの大気を惑星に繋ぎ止めた。
高温の火山ガスと地下のマグマが極寒の大地を暖め、地下で半永久的に凍結していた水分を急速に溶かして地表へ噴出させ、両極に固体として蓄えられていた大量の水分も、急速に氷から液体へと変化しつつあった。
日本列島が火星に転移して2ヶ月が経つ頃には、地球程ではないものの、大気圏が形成され、海と言うべき大洋も出現していた。
火星地表に降り注いでいた有害宇宙線が新しく形成された大気圏に遮られて大幅に減った事で、日本列島に降り注ぐ放射線は減少、電離層も安定して通信も復活した。
隔絶空間内部での人類の活動が円滑に行えるようになったのである。
♰ ♰ ♰
―――更に2か月後、2021年5月2日 【火星 アルテミュア大陸 タルシス高地 オリンポス山 特殊宇宙生物理学研究所 閉鎖区画『イ・ワト』】
うっすらと白い噴煙を噴き上げるオリンポス山の標甲3000m付近に在る熔岩ドームに似た建物内部で、マルス・アカデミー大気圏観測システムと連動したプログラムが起動し、閉鎖区画『イ・ワト』のスリープモードが解除されると覚醒シークエンスへ移行した。
そして12時間後、
「・・・」
カプセルから己のクローン体を起こしたゼイエスは、虚ろな瞳で虚空を見つめた。暫くすると、別のプログラムが起動し、宇宙の遥か彼方プレアデス星団からのシグナルを受信した。
ゼイエスは、今度こそ明確な意思を宿した瞳を、隣のカプセルから起き上がったアマトハに向けて、声を掛ける。
「アマトハ、思考に障害は無いか?」
「大丈夫、明瞭だ!視界もばっちり開かれている」
アマトハが返事をした。
「これで恒星間心身同調ネットワークシステムの実証実験に成功したぞ!」
ゼイエスが興奮して歓喜する。
「おめでとうゼイエス。個人の精神世界をここまで跳ばせるとは、我々はいったいどこまで行ってしまうんだい?」
呆れた口調でアマトハが言う。
「決まっているじゃないか」
ゼイエスがスリーピングスーツを着けた銀色の鱗が光る胸を張った。
「宇宙の果てまでさ!」
ゼイエスがどや顔で決め台詞を放つ。
「ところでだが、イワフネ達の消息を掴む前に、」
やつれたような顔でアマトハがゼイエスに話し掛ける。
「この身体は大変に"飢えている"と私は思うのだが・・・」
「・・・・・・」
腹を押さえたゼイエスが無言でコクりと頷く。
「その点は改善の余地があるな。カプセルを栄養補給モードに切り替えよう。
暫く横になった方が良いみたいだ。カプセルからの補給が終わったらシドニアの本部へ移動しよう。あそこなら、彼らと通信もとれるだろうし、イワフネの消息も・・・」
ゼイエスがパタリとカプセルに横たわる。
あっさりとダウンした同僚を呆れた顔で見ると、アマトハもまた、パタリとカプセルに横たわるのだたった。
――――――
ここまで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
【このお話の登場人物】
・イワフネ=マルス人。月=マルス・アカデミー観測ラボ『ルンナ』が彗星により損傷した時、地球に降ろされた。
・ゼイエス=マルス人。マルス・アカデミー・プレアデスコロニー特殊宇宙生物理学研究所技術担当。
・アマトハ=マルス人。マルス・アカデミー・プレアデスコロニー特殊宇宙生物理学研究所 所長ゼイエスの善き理解者。
・モウゼ=マルス人。マルス・アカデミー観測ラボ『ルンナ』クルー生き残り。
・ユダ=マルス人。マルス・アカデミー観測ラボ『ルンナ』クルー生き残り。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます